「4K」・「8K」について(2/2)

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2014年10月03日

  • 小笠原 倫明

前稿より続く

(「8Kってのもあるんだよね?」)

次に「8K」である。8Kテレビの画素数は、横8千(8K)×縦4千=約32百万。4Kの更に4倍、現行2Kの16倍になる。まだ一般の方が8Kの映像に接する機会は限られているが、ご覧になった方は一様に驚く。4Kの高精細、立体感、奥行きと申し上げたが、8Kのそれは4Kの比ではない。

8K技術の適用はテレビ(放送)に止まらない。本年3月、日本循環器学会が、冠動脈バイパス手術の8Kモニターによるデモンストレーションを行った所「2Kモニターでは不鮮明だった、手術用の極めて細い糸と針が、はっきりと見える」などとされ、医学教育、医療の進歩に大きな貢献をすることが期待される。8K映像は人間の視力4.27相当。屋外の防犯・監視カメラとしての効果も絶大であろう。

4Kは映画からと申し上げたが、8Kは我が国の放送事業者であるNHKが世界に先駆けて開発した技術である。

但し高精細といっても、人間の目がその効果を認識できるのは画面が大きなもの。4K技術が大画面の映画から導入されたのは当然とも言える。今店頭に並んでいる4Kテレビは50型(インチ)以上が多いが、これは、50型になると2Kでは画面の粗さが目に付くようになるから、と言われている。

同様に8Kが4Kとの差を訴求できるのは85型以上と言われているが、日本の通常の家屋に70型を超えるテレビは収まりにくい、アパート・マンション等には搬入も困難ではないか、という見方がある。

勿論、こうした制約を固定的に考える必要はない。例えば、将来、巻き取り型の有機ELディスプレイが登場することも考えられるし、精細度の認識も「目が肥えてくれば」という事もあり得る。テレビの歴史を振り返っても、大画面化のトレンドは一貫したもの(スマホの画面も大きくなっている!)。

ただ、当面の8K利用としては、街頭での競技観戦イベント(パブリックビューイング)、映像による街頭広告(デジタルサイネージ)、競技場内のディスプレイ(海外で大型4Kディスプレイを競馬場に設置した例あり)等の屋外活用や、前述の医療、防犯・監視等が中心になるものと思われる。

8Kへの取組は、日本以外では、まだ限られた範囲に止まっており、4Kのように、世界のあちこちで、コンテンツ制作、サービス提供、関連機器の開発に「よってたかって」取り組まれている段階には至っていない。

今後大事なのは世界展開。2020年の東京五輪は8Kをアピールする絶好の機会である。世界に向けたショーウィンドーとして、国内多数箇所での8Kパブリックビューイング、(当面広範な普及は難しいかもしれないが)家庭での8K視聴ユースケースの実証、更に、国際回線を経由した海外での8Kパブリックビューイング等に取り組む要あり。2018年実用放送開始に向けた8K放送へのチャンネル配分も、こうした観点から検討されるものと思われる。

(2K→4K→8K)

今後、我が国では、衛星放送を中心に2Kと4K、そして8Kが並行して放送される事になる。前稿で「電波が無く」とした地上波にしても、今後の技術進歩によっては、4K以上の放送が行われる可能性がある。将来4K以上の受信機が広く普及した段階で、現在の2K放送がfade-outする事もあり得る。但しそれは相当先。何れにしても、関係者のご努力により、我が国が、映像技術の展開において世界のトップランナーで有り続けることを期待する。

なお、4Kと8Kの関係については、かつてのインターネット用回線のブロードバンド化の経過が参考になると思われる。過去「将来は光ファイバ(FTTH)になる。ADSLを認めるとFTTH普及の妨げになるのではないか。」とする意見も一部あった。しかし、振り返って見ると、ADSLの急速な普及がブロードバンド需要を喚起し、次のFTTH普及にも役立った面あり。これと同様に、4Kの普及が、それを超える高精細画像(=8K)に対する新たなニーズ、新たなコンテンツ、新たなサービスを生み出す事は十分あり得る。将来の8K発展を考える上でも、4Kは通過しなければならない「一里塚」であって、4Kがスキップされる事は考えにくいと思われる。

(最後に)

以上、4K・8Kを題材に、放送/映画、無料/有料、無線/有線、画面小/大について述べてみた。放送の世界のもう一つ大きな課題は、放送(テレビ)/通信(ネット)の連携・融合。いわゆる「スマートTV」である。その内容、論点は様々。一般の方々には4K・8Kより更に分かりにくいが、放送の在り方、放送ビジネスへの影響は4K・8Kよりむしろ大きいかもしれない。もし機会があれば、これについても触れてみたいと思う。

小笠原 倫明

元総務事務次官。1976年京都大学経済学部卒業 郵政省入省。情報通信政策局長、情報通信国際戦略局長、総務審議官(郵政・通信担当)を経て2012年に総務事務次官。2013年10月~2015年6月大和総研顧問。

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