岸和田だんじり祭を機に故郷を思う

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2014年09月03日

残暑はまだ続くが、いよいよ夏が終わり、季節は秋に入った。秋と言えば祭りのシーズンだ。全国に祭りは数多くあるけれども、筆者にとって祭りと言えば、やはり地元のだんじり祭だ。今年は9月13日・14日に開催される岸和田だんじり祭(※1)は、大阪・泉州地域の秋祭りの先陣を切るものであり、普段は静かな町がこの時期は全国や海外からの大勢の観光客で賑わうことになる。

かつては関西にある一地方の祭りにすぎなかったが、確か今から20年ほど前に在京テレビ局がだんじり祭の特集番組を全国に放映したことがきっかけで、だんじり祭の名は全国に知れ渡るようになった。わずか2日間の開催ではあるが、観光客数は60万人前後(※2)であり、1日当たり観光客数でみると博多祇園山笠やさっぽろ雪まつりと並ぶ全国一の規模を誇る祭りとなっている(※3)

元々、岸和田市のある泉州地域は住みやすい地域で、瀬戸内海式気候に属し年間を通じて降雨が少ない。大阪市内へは電車で40分程度で行くことができ、20年前にできた関西国際空港も近い。さらにだんじり祭もあるので、特に岸和田市出身の人々は就職しても地元を離れたがらず、また結婚しても地元周辺に居を構えることが多いと言われている。そのため、親子孫三世代が周辺地域にいる安心感もあってか、岸和田市の合計特殊出生率は1.54と、同じ大阪府平均の1.32や全国平均の1.38よりも高い傾向にある(※4)。これは他の泉州地域でも大体同じだ。

しかしながら、岸和田市でも人口は減少している。主な原因は、人口が他地域へネットで流出していることだ。他の泉州地域でも、若者や関西国際空港関連の雇用を引き付けている和泉市や田尻町を除いて同様の現象が起きており(※5)、中にはだんじり祭の曳き手不足を補うために他地区から曳き手の応援に来てもらっている例もあると聞く(※6)。泉州地域と言えば最近では水ナスが有名だが、かつて地場産業であった繊維やタマネギといった地元の農産物は、海外や他地域との競争に敗れ、現在ではそうした仕事に従事している人も非常に少なくなった。祭りが行われる期間を除けば、普段の中心市街地の商店街は静かであり、シャッターの閉められた店が目立っている。

安倍政権は来年の統一地方選に向けて、地域活性化の対策を練り始めたところだ。たとえ全国規模の集客力のある祭りがあって、全体的な立地条件は良くて出生率が高い場所であっても、若者にとって生活上必要となるインフラの利便性が低く、異業種や他地域・海外との交流や人口流入が少ないと、新たな情報や視点が入りにくくなり、結果的に付加価値の高い雇用は期待できなくなる。雇用増と地域活性化には地域資源を発掘する新たな視点が求められるが、保守的な考えの根強い地域でそれが可能なのか。地域活性化には政府や自治体だけでなく、住民意識の変化も大きく迫られているのである。

(※1)祭りのメインである13日・14日(宵宮・本宮)以外にも、9月7日と12日には試験曳きが行われる。
(※2)大阪府岸和田市公式ウェブサイトより。
(※3)日本政府観光局(JNTO)のウェブサイトには、訪日外国人観光客向けに英語で「日本全国のお祭り(“Festivals & Events”)」年間スケジュールが紹介されているが、この中に岸和田だんじり祭が含まれていない。関西国際空港から至近距離にある祭りでもあり、当該リストへの掲載を望みたい。
(※4)厚生労働省「平成20年~平成24年人口動態保健所・市区町村別統計」より。
(※5)総務省統計局「国勢調査」および大阪府総務部統計課「大阪府の推計人口」より。
(※6)その影響かどうかはわからないが、昨年、久しぶりに地元の祭りを見て驚いたのは、「ソーリャー」の掛け声が語尾の下がる言い方に変わっていたことだ。地元志向の曳き手が多く、伝統文化が強く残るだんじり祭においても、徐々にその姿が変わりつつあるのを目の当たりにした。

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄