外国人家事労働者が日本女性を救う?

「女性の活躍推進」に対する効果は期待しづらい

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2014年04月23日

  • 矢澤 朋子

2014年4月4日、経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議が開催され、「家事の補助・介護分野での外国人のサポートも検討すべき」との提案がなされた。その目的は「多くのわが国女性の潜在力を発揮させる」ためで、「育児・介護中の男性・女性の負担・制約を解消していくためには、家事等の負担を軽減し、『働きたくても働けない』人が働く機会を得られるような環境整備を進めることが必要」であるとされた(※1)

マスコミ報道ではこれにより女性の社会進出が進むとの意見が見られ、筆者は日本も香港やシンガポールのように家事・育児サービスを外注することが一般的になるのかと思った(※2)。しかし、政府の公表資料をよく読むと、この提案が「女性の活躍推進」という目的に合致する対策ではないように感じた。筆者自身が育児中かつフルタイム勤務をしているため、ここでは、(介護ではなく)育児中の働く/働きたい女性の視点からの疑問点を二つ挙げてみよう。

一点目は、求められるサービスが就業中かそうでないかで違ってくるということ。育児中のため就業できない女性にとって必要なのは子どもの預け先(保育所)の確保、就業中の女性にとって必要なのは家事及び育児サービスと、それぞれの対策は分けて考えるべきであろう。二点目は、現在の非常に高い家事・育児サービスの料金が手軽に利用できる水準まで低下しないと予想されること。現時点での政府の考え方は、外国人労働者に日本人より低賃金で働いてもらうわけではないというものである。外国人労働者を不適切な待遇で酷使するべきではないのは当然だが、利用者側からするとサービス料金が高いままではなかなか利用できない。

以上から、今回の提案による育児中の働く/働きたい女性の就業率を押し上げる効果は限定的になると考える。会議では企業経営者を含む民間議員から「家事、介護人材がいなければ女性の活躍推進はできない。」との意見が上がったが(※3)、もちろん現在不足している人材を補充するという対策は必要である。しかし、企業は旧来の「男性は仕事、女性は家庭」という男女分業の社会通念に基づいた「無制限」な働き方から、男女ともに働く(ともに家事・育児を担う)ということを前提とした働き方へ移行させていくことが必要となろう。男女が働く条件・前提を同じくすれば、女性の社会進出はおのずと進んでいくと考える。そして、政府が早急に取り組むべきことは保育所の増設であろう。

今回の短期的な対策のみでなく、働き方の改革、人材が定着しづらい保育・介護業界の改革など長期的な対策も絶えず進めていくことを期待したい。

(※1)第4回経済財政諮問会議、第2回経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議 資料
(※2)当社コラム「外国人家事労働者と"母の味"」(2014年1月28日)参照
(※3)甘利内閣府特命担当大臣記者会見要旨

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