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外国人家事労働者と"母の味"

外国人労働者受け入れ拡大に対する一考察

2014年01月28日

経済調査部 研究員 矢澤 朋子

2013年6月、在日米国商工会議所は「日本人女性の就業を促す外国人家事労働者の雇用に向けた移民法の改正を」という意見書を日本政府に提出した。内容は、「日本は生産年齢人口の減少に直面しているが、重要な労働力である女性が仕事と家庭の両立ができないため就業を断念せざるを得ない状況が続いている。この状況を打破するため、移民法の改定により安価な外国人家事労働者を受け入れ、日本人女性の就業継続や家事育児負担の軽減を進めるべき」というものであった。

子どもを持ち、フルタイムの仕事をしている女性(筆者も該当)にとっては、安価な家事・育児サービスが利用できるようになるというのは、朗報である。意見書でも指摘されているように、現在、日本における家事・育児サービスは非常に高い。

例えば、ある家事代行会社で留守中に家事を終わらせる家事代行プランを依頼すると、1時間当たりの料金は3,465円。週1回2時間利用すると、税・交通費込みで月額およそ3万4千円。国民生活センターによると、ベビーシッターの利用料金は基本時間帯(一般的には8:00~21:00)で1時間当たり1,000~2,000円程度となっている。市区町村が運営するファミリーサポートセンターに依頼する場合、東京都内では大体1時間700~800円で育児サービスが利用できる。

子どもを持つ共働き世帯が週1回2時間の家事代行サービスと週5日1時間(例えば18:30~19:30)の保育サービスを利用すると、月5万円弱~7万円強の出費となる。日本の女性就業者の約6割は非正規雇用となっており(※1)、そのうち未就学児の子育て期にあたる25~39歳の賃金は平均して月額18万円程度である(※2)。日中の子どもの預け先である保育所費用(※3)に加えてこれらの家事・育児サービス費用を負担するのは、共働きといえども家計に非常に厳しいと言えるだろう。対して、フルタイムで住み込みの外国人家事労働者を雇うことが珍しくない香港では、その最低賃金は日本円で月約5万5千円(4,010香港ドル)と香港労工処(Hong Kong Labour Department)によって規定されている。雇用者は外国人家事労働者の住居や渡航費、医療費などその他にも費用を負担しなくてはならないが、それでも家庭の家事・育児全般を一手に担ってもらえるのであれば、決して高くはないだろう。

しかし、「外国人家事労働者による家事・育児サービスを実際に利用するとしたら…」と考えると、様々な疑問や不安が多く浮かんできた。外国人家事労働者を個人的に雇うには身元引受人にならなくてはならないが、そこから発生する責任や雇用契約に関する問題に対処できるだろうか?意思の疎通はうまくいくのか(日本語は話せるのか)?日本と海外の家事や育児の方法は異なるが、日本(それぞれの家庭)の方法に対応できるのか?子どもの体調不良やけがの場合に適切な対処ができるのだろうか?・・・など、枚挙にいとまがない。

なかでも、最も気になったのが「食事」である。

昨年12月に「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されたからというわけではないが、日本人にとって家庭の食事は非常に重要な意味を持つと考える。それぞれに“家庭の味”、“母の味”があり、「嫁の味より、母の味の方が好き」という男性も多いと聞く。また、日本のお弁当は栄養バランスや彩りなどを考えて作られ、海外でも非常に評価が高い。最近では、受験期の子どもを持つ母親は子どもが通う塾へお弁当を届ける/持たせるというのが一般的となっている。仕事をしていても子どものためにお弁当を手作りする母親も多く、日本の「食事」は家族に対する重要な愛情表現となっていると言えるだろう。

外国人家事労働者が食事を用意するということは、“家庭の味”、そしてそれを通じた家族に対する愛情表現はなくなってしまうのだろうか?子どもに食事の準備や後片付けの手伝いをさせることで行っていたしつけはどうしたらいいのだろうか?

総務省の「人口推計」によると、2012年10月1日現在の日本の高齢化率は24.1%と世界でも例がないほど進み、日本の人口は減少を続けている。このような状況の中、外国人労働者を日本に招き入れることは、生産年齢人口の縮小を食い止める重要な選択肢の一つである。安価な外国人家事労働者の利用が一般的になれば、育児によって就業を諦めていた女性は労働市場に戻ることができ、就業を継続していた女性は仕事、そして(家事ではなく)子どもにより集中することができるようになるだろう。しかし、これまでに経験がなく、想像もしなかった大きな変化も同時に受け入れていかなければならない。外国人労働者の受け入れ拡大に関しては、まず、国民を巻き込んだ十分な議論を行うことが必要と考える。

(※1)「平成22年 就業形態の多様化に関する総合実態調査の概況」厚生労働省 正規、非正規の定義は統計によって異なる。
(※2)「平成24年 賃金構造基本統計調査(全国)結果の概況」厚生労働省
(※3) 日本における保育費用は、認可保育園の場合は「応能負担」となっており、収入の多い世帯ほど多く支払う仕組みである。市町村によって異なるが、千代田区では世帯年収5百万円程で月額4万円超(3歳未満児)。認証保育所では収入の違いに関係なく、月額7万7千円~8万円が上限となっている(東京都)。

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