ボランティアは定着するか

「共助」が求められる中で

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2014年04月09日

社会保障の財源不足が問題となっている。医療や介護においても、もはや国が主体の「公助」のみに頼らず、自身の健康について自ら維持・管理していく「自助」が求められるようになった。さらに震災後に大きく見直された親族・近隣との『絆』なども後押しとなり、地域コミュニティや住民同士の支えあいに基づく『地域包括ケア』などの「共助」が政策としても取り上げられるようになった。

しかし、これまでわが国では地域コミュニティの希薄化が進行してきた。昼間地域にいないことでコミュニティに参加していないことや、コミュニティ活動の中心となる子供の減少、住民の頻繁な入れ替わりによる地域への愛着・帰属意識の低下、などが主な理由である。

こういった状況の改善を待たずに、地域ボランティアやNPOによるインフォーマルな活動を介護などの政策に組み込もうとのことだが、これまでボランティア意識の乏しかった日本人に、自主的な慈善活動を頼りにした施策は馴染むのだろうか。実際、わが国のボランティア活動に費やす時間は、主要国との比較でも韓国に次いで短いのである(図表1)。

図表1 国別、週のうちボランティア活動に費やす時間(男女別)

ただ、3.11の震災をきっかけに、希薄化していた地域の結びつきが見直され始めており、市民の間でもボランティアやNPOの活動に対する意欲は高まりつつある。例えば、国内のボランティア活動の状況について行われたアンケート調査(内閣府[2014])の結果を見ると、ボランティア活動への参加経験者は全体の35.0%で、うち3.4%は震災発生後に参加している。またボランティア活動に「関心がある」と答える人は全体の58.3%(うち18.9%は震災後に関心を持つようになったと回答している)に上り、多くの人がボランティア活動に心を寄せている様子がうかがえる(※1)。また、図表2が示すNPO法人の認証数累計も年々拡大傾向にある。他国との比較ではまだまだ僅かではあるが、わが国でも社会貢献など慈善活動に対する意識は高まりつつあるようだ。

図表2 NPO法人認証数累計

一方で、ボランティア活動への参加を阻む主な要因として、「活動に参加する時間がない(51.5%)」「活動に参加する際の経費(交通費等)があり、経済的負担が大きい(30.5%)」(複数回答)が挙げられている(※2)。近年、企業に対する社会的責任(CSR)や社会的責任投資(SRI)が重視され、ボランティア休暇やボランティア休職(※3)の制度を導入する企業も増加するなど、企業の社会的貢献活動もある程度定着しているが、制度はあっても取得しづらいというのが、実際の現場の意見かもしれない。

わが国で芽生え始めているボランティア活動の動きを、地域コミュニティにおける「共助」に繋げていくには、社会全体で慈善活動への参加を阻まない環境づくりが必要であろう。さらにボランティア経験が何らかのかたちで個人にフィードバックされるような体制に転換できれば、参加者はいっそう増加する可能性がある。

先ほどの内閣府[2014]の調査でも、ボランティア活動への参加理由が「困っている人を支援したいという気持ち(41.1%)」という回答以上に、「活動を通じて自己啓発や自らの成長につながると考えるため(43.1%)」(複数回答)と回答する人が多い結果となっている。こうした点が、われわれ日本人のボランティア観を表しているのかもしれない。

(※1)内閣府[2014]「平成25年度 市民の社会貢献に関する実態調査」
(※2)脚注1と同様。
(※3)企業が従業員のボランティア活動への参加を支援・奨励する目的で、有給の休暇・休職を認める制度のこと。休職期間中は給料・賞与相当額が援助金として支給されるケースもある。

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執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 石橋 未来