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銀行の自己資本比率規制:経過措置(グランドファザリング)を考慮しないことの是非

2014年02月13日

金融調査部 主任研究員 鈴木 利光

国内基準行(※1)を対象とした新たな自己資本比率規制(バーゼルⅢ(※2)の国内基準行版、すなわち「国内基準行向けバーゼルⅢ」)の適用開始日が迫っている(※3)

国内基準行向けバーゼルⅢでは、国際統一基準行(※4)に対して適用されるバーゼルⅢに倣い、規制上の自己資本(自己資本比率の分子)の質の向上が図られている。すなわち、資本算入項目の範囲は縮小され、控除項目(調整項目)の範囲は拡大されている。

もっとも、これまたバーゼルⅢに倣い、規制の変更に対するソフトランディング(軟着陸)を可能とすべく、一定の経過措置(グランドファザリング)が設けられている。

ここでいう経過措置とは、具体的には、従来は資本算入が認められていた項目のオミット(不算入)を10年又は15年かけて段階的に実施することや、控除項目の控除を5年かけて段階的に実施すること等を許容する措置である。

こうした経過措置は、銀行に対する恩恵的な性格を有するものであり、銀行側からは、本来的には歓迎されるべきものである。

しかし、実際には、経過措置の考慮は、自己資本比率の算出過程を煩雑にするという側面も持ち合わせている。

例えば、子会社の少数株主持分のケースである。

国内基準行の場合、現行ルールでは、子会社の少数株主持分は、一般的に資本算入が認められている(※5)

これに対し、国内基準行向けバーゼルⅢでは、少数株主持分の自己資本への算入が認められる「子会社」を金融機関等(銀行・証券)に限定したうえで、資本算入可能額に上限を設定している。

こうした規制要件の厳格化に対して、経過措置が二通り設けられている。

一つは、金融子会社(銀行・証券)の少数株主持分であり、資本算入可能額の上限を超過したために資本算入されなかった部分の額について、15年かけて段階的にオミットすることを許容する措置である。

いま一つは、金融子会社以外の子会社の少数株主持分、すなわち、規制の変更により資本算入が認められなくなった部分の額について、10年かけて段階的にオミットすることを許容する措置である。

このように、子会社の少数株主持分一つをとっても、範囲と期間が異なる二つの経過措置があり、自己資本比率の算出過程を煩雑にするには十分である。

さらに、国内基準行のうち、内部格付手法採用行(IRB行)については、当該銀行を国際統一基準行とみなし、普通株式等Tier1比率4.5%以上(※6)を維持することがIRB行たることの継続要件とされているが、この比率についても、国際統一基準行としての経過措置(すなわちバーゼルⅢの経過措置)の考慮が許容されているのである。

仮に、これらの経過措置の考慮が義務であるとすれば、国内基準行の自己資本比率の算出過程は、著しく煩雑となり得るといえよう。

しかし、本稿の中でも何度も述べているように、経過措置の考慮はあくまでも「許容されている」ものであり、義務ではない。銀行の任意にすぎないのである。

したがって、国内基準行向けバーゼルⅢベースの自己資本比率を新たに算出するにあたっては、経過措置(の一部)を考慮しなくても自己資本比率の最低水準をクリアできるという状況であれば、コスト・ベネフィットの観点から、経過措置(の一部)を考慮しないという選択をする銀行も出てくることが考えられよう。

(※1)海外営業拠点を有しない銀行をいう。
(※2)国際的に活動する銀行の自己資本・流動性の新たな規制枠組みをいう。わが国では2013年3月31日より段階的な実施が開始されている。
(※3)国内基準行向けバーゼルⅢは、2014年3月31日より段階的に実施される。
(※4)海外営業拠点を有する銀行をいう。
(※5)当該子会社が株主資本に計上している負債性資本調達手段及び期限付優先株を除く。
(※6)経過措置により、最初の1年(2015年3月30日まで)、すなわち2014年3月期までは「4%以上」とされている。

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執筆者紹介
金融調査部
主任研究員 鈴木 利光