中間層の反乱

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2014年02月06日

  • 木村 浩一

以前、本コラム(2010年3月25日「世界を変える4つのメガトレンド」、2011年2月16日「再び「世界を変える四つの人口メガトレンズ」」)で紹介した、ジョージ・メイソン大学のゴールドストーン教授が「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(2010年1月号)に寄稿した論文「世界を変える四つの人口メガトレンズ」で、教授は、欧米民主主義国家、共産主義国家、途上国という冷戦期の世界の3分類に替わり、今後の人口の年齢構成と人口分布をめぐる世界的な偏在により、新たに3つの世界に分かれていくだろうと分析している。

第1世界は、北米、ヨーロッパ、アジア・太平洋地域(日本、シンガポール、韓国、台湾、2030年以降の中国)。第2世界は、急成長を遂げ経済的にもダイナミックで、バランスの取れた人口をもつブラジル、イラン、メキシコ、タイ、トルコ、ベトナム、「2030年までの中国」などの諸国。第3世界は、人口が急成長し、若者が多く、都市化が進むが、経済も政治も不備が多い国々。

2010年から始まったアラブの春は、ゴールドストーン教授が分類する第3世界の貧しくて若者が多いイスラム諸国で集中的に起きた。しかし、昨年以降、第2世界のブラジル、タイ、トルコ、ウクライナで大規模なデモが起きている。

これについて、アメリカの国際政治学者でユーラシア・グループ代表のイアン・ブレマー氏は、「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(2014年1月号)に掲載した論文「政治的正統性の危機」の中で、「新興市場国の政治指導者たちが、政府への要求を高める中間層の拡大という現象に直面している。」「新興諸国の多くでは成長率が鈍化し、経済成長に多くを望めない状況にあるのに、生活レベルの向上に向けた民衆の期待は高まっている。」「近代的なコミュニケーションツールが広く普及したことで、不満を募らせる市民たちが怒りを共有し、デモを組織しやすくなったことも見逃せない。この脆弱性を克服しようと、政治指導者の一部は、今後、大衆の怒りを他のターゲットへと向かわせようと試みるかもしれない。」、と分析している。

世界人口69億人(2010年)の内、第1世界約13億人、第3世界約20億人に対し、第2世界は約36億人に達する。第2世界の人口が多い上、今後、所得の上昇とともにその中間層は増加していく。ブレマー氏が指摘するように、経済成長が続かなければ、中間層の反乱が頻発するだろう。リーマン・ショック後、アメリカの家計の過大債務は解消しつつあるものの、ヨーロッパや中国などの過剰債務の解消は進まず、構造的な供給過剰、失業率の高止まりが続いており、ニューノーマルの世界では従来の延長線での経済成長の継続は望みにくくなっている。また、中間層の不満をそらすため、対外的な摩擦が増えることが予想され、中間層の反乱は国際摩擦の火種になるおそれがある。主要国の政治リーダーは、景気回復だけでなく、中間層の反乱が導火線になりかねない国際紛争の防止のため、国際協調の枠組みの見直し、グローバル・ガバナンスの再構築も求められるだろう。

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