子供こそ成長戦略の根本

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2013年12月04日

  • 中里 幸聖

わが国の成長戦略が注目されている。

日本経済が成長軌道に戻るか否かは、今後の世界経済のあり方、金融市場の動向、東アジア・太平洋地域の安全保障に大きく影響を及ぼすであろう。

昨年(2012年)末に発足した第二次安倍政権は、「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」を「3本の矢」として日本経済の活性化を図っていることは周知の通りである。このうち第1の矢である金融政策、第2の矢である財政政策は、少なくともわが国の閉塞感を前向きに転換させるのには成功したと考えられる。しかし、第3の矢である成長戦略は、現時点での効果は芳しくないというのが大方の感覚であろう。

成長戦略のグランドデザインである「日本再興戦略」(2013年6月14日)に書かれていることが全て実現すれば、日本経済が再び成長に向かうことは間違いないだろう。しかし、その実現性に対し確信が持てず、家計も企業も成り行きを見守っているのが現状であろう。政府の政策であるからには総合的である必要はあるが、焦点がわかりにくいということはないだろうか。

家計や企業に確信を持たせるためには、明確なメッセージを打ち出すことが重要と考える。つまり、様々な分野にわたる成長戦略の中で、何が肝なのか、その急所を実現するためには何を解決しなければならないのか、を明確に示すべきである。成長戦略の最重要課題については様々な主張や見解があろうが、わが国の場合、長期的な需要の安定を見通せるかどうかが核心であろう。そして、そのポイントは子供である。

わが国の出生数は長期下降基調にあり、2012年の合計特殊出生率は1.41(※1)、出生数は約104万人である。合計特殊出生率は一番低かった2005年の1.26より若干回復しているものの、分母である15~49歳の女性の絶対数が減少しているので、出生数は戦後最小値を更新している。

人口減少は、食糧や交通量など様々な需要の絶対量に基本的にマイナスに作用する。よほどの勝算があるか、量の追求を超える付加価値を見出していなければ、総体としての需要が減少する可能性が高い国での積極的な事業展開には障害が多いといえよう。また、人口構成の高齢化が進展すれば、年金や医療などの各種の社会保障負担が重くなる可能性が高くなる。この数十年、企業が海外を志向する傾向が強いのは、根底には人口問題が横たわっているのではないだろうか。検証はし難いが、わが国の経済規模と人口規模は中小国と呼ばれる規模よりはるかに大きいため、相対的に人口減少の影響が深刻になりやすい水準にあると思われる。つまり、子供を増やす、少なくともこれ以上子供が減らない施策を積極的に行うのが、成長戦略の鍵であると考える。

人口減少に歯止めがかかり、いわゆる静止人口(一定の水準を保っている人口)となれば、絶対的な需要量の減少に歯止めがかかり、高付加価値化での展望が見えてくるし、各種の負担も一定範囲内での計算が可能になる。子供が減らないための施策の効果が、人口や年齢構成の安定化などの形で明確に出てくるのは20~30年かかる可能性があるが、その見通しが立つのであれば、日本という国の潜在力は十分な魅力を放っているはずである。

そこで、出生率を少なくとも人口置換水準(合計特殊出生率で2.07前後といわれている)まで持っていくための政策が、成長戦略の根本であると考える。しかし、現在の各種の少子化対策は必要なことではあるものの、既に子供を持つ親やこれから子供を持つ可能性のある若い世代に響いていないと思わざるを得ない。では、どうあるべきか。について、縷々説明しようと考えていたが、コラムとしては長くなってしまったので、ここでは基本的な方向性を示すにとどめ、具体的な話はまた機会があれば書いてみたい。

①子供が一人前になる期間を想定する(保育所の待機児童解消は重要だが、学齢期以降の各種費用や学校行事と整合性のある施策も必要である。共働きの親が平日昼間にPTA等に参加するのは困難であり、複数の子供がいる場合はさらに難しい)。②少子化対策と所得再分配政策は切り離す(現状では所得制限などの形で混在しているが、子供を育てている親に誤ったメッセージを発信していることになる)。③若者の雇用を安定させる施策を積極化する(自分自身を養う見通しが立たなければ、結婚も出産も困難である)。その他にもいろいろ述べたいことはあるが、まずは、実際に子育て中の親(特に学齢期の子供の親)や未婚の若い世代から本音の意見を引き出し、多くの事例を収集することに注力すべきではないだろうか。識者と現実に苦労している人との認識が重なっているとは限らない。

(※1)合計特殊出生率は「15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの」である。報道等で用いられることが多い「期間」合計特殊出生率は、ある1年間における女性の各年齢(15~49歳)の出生率を合計したものであり、その時点の女性の生涯出生数の瞬間風速的な値である。

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