中国増値税改革-三中全会後の課題
2013年11月29日
(段階的に進められる営改増)
中国では周知のように、2012年以来、営業税を増値税に切り替えていく‘営改増’と呼ばれる増値税改革が進められており、財政部長(大臣)自ら「1994年分税制改革(※1)最終段階の重要な改革」と発言するなど(9月5日付亜太財経与発展中心)、これが税制改革、ひいては財政改革全体の中の‘重頭戏’、困難だが最も重要な課題と位置付けられている。11月の三中全会後公表された「全面深化改革における若干の重要な問題に関する中共中央の決定」(「決定」)においても、「財税体制改革の深化」の中で「増値税改革を推進する」ことが再確認された。
増値税はモノ、営業税はサービスにかかる流通税だが、増値税が付加価値をベースにしているため仕入れ税額控除が行われるのに対し、営業税はグロスの売り上げに課税されるため一般的に税負担が重くなっていること、さらに営業形態の複雑化に伴い、両方の課税対象となって二重課税される企業が増加しているという問題が生じてきていることが、改革の直接的背景にある。中国の他の多くの改革同様、段階的に進められており、対象業種はまず交通運輸業と一部現代サービス業とされ、2012年1月に上海を試験区として導入されたのを手始めに、その後12年末までに、北京、深圳、江蘇省、広東省、天津等に拡大、計9の省(市)が先行試験区とされた。さらに2013年に入り、22の省(市)が新たに追加された後、8月1日より実施が全国に拡大されると同時に、現代サービス業の対象範囲が拡大された。対象地域拡大後初の納税申告となった9月、税務当局によると、新たに対象となった各地企業で「平穏」に移行が進んでいる(10月13日付中財網他)。対象産業については、現行12次5ヵ年計画期間中に、金融保険、通信、文化体育、娯楽など、現在営業税が課せられている全てのサービス業種に拡大される見込みである。当面、来年初にも、郵便電信または生活サービス関係の何れかが拡大の対象になる可能性が高いと見られている(10月25日付経済参考報)。
(これまでの効果は?)
財政部・国家税務局によると、10月の納税申告の時点で246.83万戸の納税者(一般44.69万、小規模202.14万)、新たに営改増の対象となった地域では100%近くが営改増の適用を受けている。実施拡大による経済効果は、GDPを0.5%押し上げ、輸出0.7%増加、70万人の新たな雇用創出などと見込まれている(国家税務局、10月30日付経済参考報)。減税効果については、2013年10月までの減税額は939.65億元、年全体の減税額は1,200億元を超える見込みで、通年ベースでは2,000-3,000億元にのぼるとの推計がある(11月22日経済参考報、9月8日付人民網、8月5日付解放日報等)。この他「小企業に対する減税効果が相対的に大きく、平均で40%の減税幅となっている」(国家税務局)、「減税になる範囲は95%と大半、しかし業種によって、例えば交通運輸の中でも陸路運輸等、受けられる仕入れ税額控除が少なく、とりあえず増税になっている企業もある」(4月18日付人民日報等)等が伝えられている。
(その評価、第二の抜本的税制改革になるのか)
大半の企業関係者や学者がこれを評価しており、批判的な声は見当たらない。望ましい税制の基本原則として、欧米諸国では通常「簡素、税の捕捉・徴税の効率性」、「中立」、「公平」といったことが掲げられるが、こうした原則は、中国においても同様に考えられるべきものである。その観点からすると、営改増は明らかに税目の整理を通じ税制の簡素化に貢献し、徴税の効率化が期待できる。また製造業とサービス業で、税制面で異なる扱いであったものが同じ扱いになるという点で、経済活動に対しより「中立」、「公平」になる。実際、営改増を始めた大きな政策目的のひとつが、第三次産業比率の引き上げによる産業構造の高度化であることは疑いない。
問題は、営改増を契機にして、中央と地方の税源配分をどうしていくかである。現状、増値税は75%が中央、25%が地方に帰属するが、営業税は、鉄道や全国展開をしている金融保険業以外は全額地方に帰属し、地方政府の重要な財源となっている(地方税収全体の30%を超える最大の税項目)。現在、暫定的に営改増によって生じた増値税収については全額を地方に帰属させ、地方税収に影響が及ばないようにしているが、営改増が完了して、地方の重要な財源である営業税がなくなった後、どうしていくかは大きな課題として残っている。暫定措置を維持する、あるいは増値税全体の中央・地方間配分比率を地方に厚くする方向で修正することが最も簡便ではあろうが、前者については、増値税への一本化と言いながら、実際には税制の複雑さを温存することになり、また後者には、増値税全般が基本的には製造業の生産活動に依拠していることから、地方政府のインフラ投資志向マインドを強め、消費主導への経済構造の転換を遅らせてしまう懸念がある。
11月の三中全会「決定」、およびその後発表された財政部長による「決定」の財政面の補足解説(輔導読本)では、営改増を予定通り12次5ヵ年計画内に完了させることの他、地方税体系を改革し直接税の比率を高めていくこと、税率を簡素化すること、房産税(不動産税)の法制化を進めること、資源・環境に配慮した税制改革を進めること、インフラプロジェクトの資金調達のための地方債の発行を解禁することといった重要な言及があるが、中央と地方の関係については「各々の支出責任と財源が適切に対応した制度を構築していく」といった一般的・抽象的文言が多く、問題意識は十分うかがえるものの、具体策はこれからだ。より踏み込んで、税目全般にわたる中央と地方の配分見直し、中央から地方への歳入移転についての客観的かつ明確な基準の設定(現在は裁量的に行われているため、中央・地方間で不正が生じる余地が大きいと言われている)、中央と地方の行政の責任分担見直しを含めた、歳入歳出両面からの中央と地方の関係を見直す契機になっていくかどうかが注目点だ。
(※1)分税制改革:1994年に行われた大きな税制改革。それまでの地方財政請負制(中央政府と各地方政府が、個別交渉で当該地方から中央への上納金を予め決めておき、上納後の余った財源を各地方に留保する仕組み)を改め、国と地方間での全国統一的な税源配分(増値税・消費税の配分割合は国:地方=3:1、企業所得税・個人所得税は3:2など)と、税収の対GDP比率と中央のシェア引き上げを目的としたもの。
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