2013年11月14日
11月7日、欧州中央銀行(ECB)は理事会で政策金利の引き下げ(0.5%→0.25%)を決定した。事前に利下げは市場では観測されておらず、サプライズだった、といえる。ドラギ総裁は記者会見で「金利はさらに下げることもできる。利用可能なすべての手段を講じる用意がある」と述べ、追加緩和の可能性にも言及した。ユーロ圏の10月消費者物価(速報値)は前年比+0.7%と予想を下回っており、低インフレの長期化の懸念が利下げの理由となっている。低インフレの長期化だけでなく、デフレに陥る懸念も念頭に置かれているだろう。景気は底打ち感が出てきているが、経済稼働率が上がり、すなわち需給ギャップが縮まってディスインフレから脱却できるまでには時間がかかり、財政政策を発動しにくい以上、おのずと金融政策に期待がかかるのではないだろうか。筆者は、1年以内に利下げして政策金利をほぼゼロの水準にする可能性はかなりあるのではないかと予想している。そうすると先進国(日米欧)の政策金利はすべてゼロに揃い、量的緩和の度合いが金融政策のスタンスの差を表現するようになる。
今回のECBの利下げに際しては、23人の理事会メンバーのうち6名が反対したと伝えられており、執行部主導で行った利下げともいえる。ドイツなど北部諸国には、インフレを警戒してこれ以上の金融緩和には慎重な意見が根強いのも事実である。しかし、一時はマイナスになっていたと推測される長期の期待実質金利が現在はプラスになっていると思われ、長期金利が上昇していくと民間投資に悪影響が生まれる可能性がある。長期金利の上昇を止めるためには、政策金利が将来長期間にわたって低水準にとどまるという市場の期待を形成させなければならない。実際に政策金利がゼロ金利となっても短期的な量的緩和では長期金利の上昇は抑制できないかもしれない。実際に10年物ドイツ国債利回りは、2013年年初1.41%が現在は1.96%(11月11日)へと上昇している。政策金利を下げても長期金利は下がっていない。
この事情は米国も同様である。量的緩和(QE3)が継続しているにもかかわらず、10年物米国国債利回りは2013年年初1.86%が2.63%(11月11日)へと上昇している。次期FRB議長候補となったイエレン副議長は、FRBに法律で定められている2つの責務=雇用創出と物価安定を重視するとしばしば発言し、実質的には雇用創出に重きを置いているようだ。政策判断の基準としてインフレ率だけでなく失業率など労働市場の指標を重視する姿勢がある。そうした実物経済の改善を求めるのであれば、量的緩和で国債を大量に買い続けることよりは、いかに長期的な金利上昇期待を抑制するかということに政策の軸をシフトすべきである。大胆な量的緩和が流動性危機に対して有効であることは疑いない。また流動性危機に伴って売られすぎた資産価格を正常化するのにも役立つだろう。しかし、危機後の景気を浮揚させるためには民間の実物投資の活性化が必要であり、そのためには長期金利、特に長期の期待実質金利の安定が望ましい。それを金融政策当局がどのように実現していけるのかが今後のポイントであろう。
日本の場合、いわゆる昨年総選挙における自由民主党勝利=大胆な金融緩和策期待、そして日銀新体制で量的・質的緩和政策実施以降、長期金利は上昇していない。10年物国債指標利回りは2013年年初0.835%であったが、現在は0.585%(11月11日)へと低下している。年の途中ではもっと低下しその後いったん上昇するといった波を打っているが、大勢として上昇基調にあった欧米とは異なる動きだった。日本は、しばらく現在の量的・質的緩和政策を着実に実行することが景気にプラスに働く可能性が高い。ただし、いずれは、長期金利の上昇への備え、抑制策が必要となってくる可能性がある。

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