消費税増税と社会保障純給付増のマクロ・バランス

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2013年09月12日

  • 市川 正樹

消費税増税が行われたとしても、社会保障給付総額は急速な増大を続ける一方、社会保険料等の負担総額はそれほど増大しない。マクロ・バランスを大まかに考えてみる。

社会保障の給付総額と社会保険料等の負担総額の開き(社会保障の純受給)は、2011年度で38.1兆円程度ある(※1)。近年、開きはほぼ一貫して拡大を続けてきており、1998~2011年度の平均で毎年度1.8兆円程度ずつ増えている。給付は、「現金による社会保障給付」が同1.3兆円程度増、「現物社会給付」が同1.1兆円程度増の一方、負担は「強制的社会負担」が同0.6兆円程度増である。

単年度で見て消費税増税分がこの1.8兆円程度の社会保障の純受給の増分と見合う場合には、下図のAのように、結局、家計部門からの消費税増税分が一旦一般政府に渡り、それが社会保障純受給の増分として家計部門に戻ってくるだけである。特に増分の多くを占める「現金による社会保障純給付」の増加の場合は、家計部門全体として見れば、追加的に納めたお金が追加的に同じくお金で戻ってくるだけである。他の条件などにも左右されるが、概念的には家計部門と一般政府部門それぞれのISバランス(一般政府にとっては財政赤字)には変化がなく、マクロ・バランスは変わらないと捉えることもできよう。もちろん、納付者と受給者は基本的には異なるため所得再分配等の効果はあるとともに、駆け込み需要とその反動等は生じうる。後者はある均衡から他の均衡への移行過程で生じる事象とみなすことができるが、その反動減等により失業や倒産等が生じれば、ヒステリシスがあり、不可逆的変化を生むおそれがあるので、平滑化できるのであればその方が良いのはもちろんである。

一方、単年度で見て消費税増税分が社会保障純受給の増分を超える場合が下図のBである。一般政府の消費税増税分の受取が、社会保障費純増分の財源を上回り、一般政府のISバランスは改善し、財政赤字は縮小する。消費税増税はもともとこれを目指したものである。これに対応した家計部門の変化としては、例えば、下図のような3通りを考える。①は、消費税増税分の支払以外の支出がそのままの水準の場合であり、家計部門のISバランスは悪化する。貯蓄の縮小、資産の取り崩し、金融負債の積み増しなどが生起する。②は支出が縮小する場合であり、消費税増税分の支払が社会保障純受給の増分を上回る分だけ縮小すれば、家計部門のISバランスには変化はない。しかし、全体でISバランスはゼロになる必要があるため、一般政府のISバランス改善との見合いで、企業部門か海外部門の少なくともいずれかのISバランスが悪化する必要がある(家計部門のISバランスには変化がなく、対家計民間非営利団体部門はもともと非常に小さい)。家計の支出が縮小するのであるから、国内景気に下向きに働き、企業・海外のいずれの部門もISバランスが悪化する可能性がある。③は家計部門の収入が増加する場合である。企業部門により、設備投資の拡大とともに人的資本への投資ともみなせる給与・俸給の引上げも行われ、家計部門の収入が増える形であれば、最終需要としての消費と投資が増え、景気が上向き、企業の業績にプラスとなり、雇用者・雇主による社会保険料等の納付額が増加して財政赤字も更に改善する好循環となる。家計部門のISバランスの悪化は軽減される。一方、企業部門のISバランスは悪化するものの、かつてとは異なり現在は黒字であり、必ずしも赤字化するとは限らない。

しかしながら、消費税増税プロセスの開始時点を2010年12月14日閣議決定の「社会保障改革の推進について」とし、終了時点を10%への引上げ完了予定の2015年10月1日とすれば、5年程度かかったことになる。この間も、社会保障の給付と負担の差は拡大を続けており、マクロ・バランスも中期的に捉える必要があろう。消費税率が5%の場合のこれまでの消費税収は13兆円弱程度であるから、これまでのペースで給付と負担の差が広がれば、仮に5%引き上げても7年程度で食い尽くすことになる。むしろ、消費税増税プロセス開始から既に3年経っており、もはや食い尽くしかかっているとみた方がいいのかもしれない。今後、このままでは一般政府の財政赤字は一旦短期的に縮小しても、すぐに再度拡大する。結局、中期的にみれば、下図AのISバランス不変と同じ状態にすぐ戻る。ただし、社会保障純受給増分(=消費税増税分)は大きくなる。所得再分配や駆け込み需要と反動等の影響はあるものの、家計部門が支払う消費税増税分はそのまま社会保障純受給の増分として家計部門に戻ってくるだけ、と考えた方が良いのかもしれない。

65歳以上人口は、2016年度まで2%を超える増加を示し、その後、増加のペースは落ちていくものの、減少に転ずるのは2043年以降と予測されている。何も改革が行わなければ、それまで社会保障給付は増大を続ける。一方、社会保険料等の主たる負担者である生産年齢人口は1%前後の減少を続ける。仮に消費税率が5%引上げられたとしても、このままでは焼け石に水なのかもしれない。

消費税増税、社会保障給付、ISバランス

(※1)SNAベース。「現金による社会保障給付」は老齢年金がほとんどで、この他、失業給付、児童手当及び子ども手当等がある。「現物社会給付」は、一般政府から家計への医療保険給付分と介護保険給付分である。「強制的社会負担」は、雇用者・雇主が納める社会保険料等である。SNAベースの財政の見方と分析については、当社レポート「SNAで見た近年の財政」(2013年8月23日)を参照。

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