変化の兆しを見逃すな
2013年09月11日
アメリカは広い。何を今更、という声が聞こえてくるかもしれないが、実際に広い。昨年、筆者が住んでいるニューヨークからロサンゼルスへ飛行機で飛んだ時、6時間ほどかかった記憶がある。国内の移動にもかかわらず半日雲の上にいたことに加えて、街の雰囲気も違えば気候も違い、まるで別の国に来たような錯覚に陥った。アメリカという国を一括りに論じてしまって良いのだろうか。
失業率などの経済指標は、往々にして全米のデータが用いられる。当然、アメリカという国の経済状況を知る上では全米のデータを利用するべきだろうが、国土が広いことから地域によってのばらつきも大きくなりがちである。たとえば失業率をとってみても、7月の全米の失業率は7.4%であったが、ニューヨーク州は7.5%と全米と同じ程度の水準であった。一方、上述したロサンゼルスが含まれるカリフォルニア州は全米を上回る8.7%であった。当然ではあるが、州によって雇用環境も違うのである。
州別の失業率ランキング(7月)を作ってみると、1位はノースダコタ州で失業率は3.0%であった。ノースダコタ州はカナダとの国境沿いの内陸部に位置し、主だった経済圏であるニューヨークやカリフォルニア、テキサスなどから離れている。日本からは決してなじみ深いと言えない地域は、なぜ全米に比べて失業率の低さが際立っているのだろうか。
様々な要因が考えられるが、いわゆるシェール革命の恩恵を受ける地域ということが挙げられるだろう。特にリーマン・ショックを受けて全国的に失業率が上昇したのに対し、ノースダコタ州は雇用環境の悪化が比較的軽微であった。実際、2008年頃からノースダコタ州のエネルギー資源の生産量は急増しており、忙しくなっているのだろう。報道などによると、季節労働者の急増でホテルなど宿泊施設の供給が追い付かず、車中泊で凌いでいる者もいるようだ。全米の民間の平均時給が24ドル程度なのに対して、鉱業などの平均時給は30ドルに迫る水準となっている。全国的に鉱業では労働者不足が生じている可能性がある。
シェール革命はまだ始まったばかりで、全米として見た影響は限定的とみられるが、一部の地域に関しては経済をひっくり返すほどの影響を与えているだろう。木を見て森を見ず、ということわざがあるが、その逆で森ばかり見ていても本質は見えてこないこともある。全体を見ているだけだと、物事の変化の兆しを見逃すかもしれない。
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