2013年08月16日
日本経済にとって、生産性を上げることによって、しだいに少なくなる労働人口で高齢化した人口を養っていくことは必須の課題である。グローバル化した世界経済の中で、国際競争力のある産業を維持して、高い付加価値を実現していくことは付加価値生産性をいかに高めるかという点で重要なポイントだろう。それは高付加価値を生み出すことのできる人材なしには考えられない。
米国は科学技術をはじめとする分野で高等人材を自らも養成し、また世界中から集めることに一定程度成功していると言えるだろう。その人材基盤のもとにコンピュータサイエンスをはじめとする先端科学のビジネス化において、90年代以降、世界をリードしてきている。その背景には、高等教育の体制において、より高度の人材育成に力を入れた姿があるように思われる。米国の高等教育事情を見てみよう。
米国の大学の学費は高い。有名私立大学の年間授業料は4万ドル程度、州立大学に州内の学生が進学する場合でも、州によるばらつきはあるが1万ドル弱になりつつある。しかし、一方で有名私立大学の奨学金制度は充実している。学部生の場合、所得に応じた奨学金制度が適用されるのが普通で、実際には低所得者でも入学できる仕組みにしている大学が多い。ボストンのさる有名大学の場合には、負担が保護者の年収の1割以下に抑えられるように奨学金を出す方針にしているという。また大学によっては、学部生にもアシスタントをさせて給与を支払うこともある。
しかし、豊かな財源を持つ有名私立大学以外では、そこまでの手厚い奨学金制度はないので、教育ローンで学費を賄わざるを得ない学生が増加していると伝えられている。今年大学を卒業した学生の平均債務は約3万ドルとの調査もある(ウォールストリートジャーナル、2013年6月13日付)。大学進学率は50%を超えている状況でもあり、一部のエリートを除き、一般学部生に対する優遇的な措置は大きくない。また、有名私立大学でも、学部レベルでは、海外からの留学生には奨学金は適用されない場合が多い。
大学院に目を向けると事情はかなり変わってくる。大学院の多くでは博士課程に進学すると、授業料は免除、アシスタントとして働くことが義務化されている代わりに、住む場所が提供され、ある程度の給与が支払われるという制度になっていることが多い。つまり博士課程に入学すると、民間企業に就職するほどの所得は得られないものの、大学院生生活を送っていくための最低限の経済的手段も与えられることになる。これは海外からの留学生にも適用されるので、米国の大学院博士課程に入学できる学力を持った学生であれば、だれでも世界中から応募できる。そして米国で博士課程を終えた人々の多くがそのまま米国に留まることになるのが実態のようである。
国としての取り組みもある。例えば、米国国立科学財団(NSF)は、18分野で学部生のための研究経験プログラム(REU)のスポンサーを行っている。 夏休みに8週間程度、大学での研究活動の経験をさせるプログラムで、滞在費などは無料のうえ交通費や給与も支給される。このプログラムに参加することが博士課程への進学にも影響するので、将来の研究者候補の育成のためだと言ってもよい。
米国の教育制度は州ごとに異なっており、中等教育では問題も多く、ポジティブに捉えられる面ばかりではない。しかし、高等人材を育成する、集めていく取り組みには学ぶべきところがあるのではないかと思われる。
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