中国のP2P金融—シャドーバンキングの'本当の地雷'?

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2013年08月02日

  • 金森 俊樹

6月以来、世界の関心を集めている中国のシャドーバンキングだが、その中でも最も実態のよくわからない金融取引がP2P(中国語では‘人人貸’)だ。銀行の窓口で販売される理財商品などに比べ、なお規模が小さいため、あまり関心が払われていないが、7月、中国の民間シンクタンクである第一財経新金融研究センターが、この関連では中国で初めてとなる包括的な調査報告書、「中国P2P借貸服務行業白皮書2013」を発表した。

P2P(Peer to Peer、または Person to Person)は、世界的な金融危機が発生し既存の銀行システムに対する信頼が低下する中で、ネット上で投資者と資金の借り手を引き合わせるビジネスモデルとして、英米を中心に数年前から普及し始めたが、中国でも2006年、北京を拠点とする総合金融サービス提供会社の‘宜信’(CreditEase)が導入したのを手始めに、特に2010年以降の金融引締めを背景として、急速に拡大している。ただし、借貸服務平台(P2Pをネット上で仲介するサービスプラットフォーム、P2P平台)としては、上海を拠点とし、現在、取扱量では最大規模の‘拍拍貸PPDAI’が、自らをP2Pの第一号だと称している。ところでこの‘PPDAI’は、同社のウェブサイトを見ると、‘拍拍貸’の中国語発音と、英語のPassion(情熱)、Perfection(完全)、Dream(夢)、Action(行動力)、Integrity(誠実)、(そしておそらくP2PのPP)をかけた呼称だ。

(白皮書が示すP2Pの現状)

白皮書によると、2012年末、P2P平台の数は200以上(ただし、関連ウェブサイトは2000余との報道もある、7月24日理財周刊等)、統計的に把握できる範囲でローン残高は100億元(1,600億円)以上、資金の出し手は5万人以上である。白皮書は、統計上把握できないものも含めると、ローン残高、投資者数とも優に倍以上になり、年間の取引規模は500-600億元にのぼると推測している。20兆元とも30兆元とも言われるシャドーバンキング全体の規模からすれば、なお微々たるものだが、注目されるのは、年率300%の伸びで急速に拡大(‘野蛮生長’と称されている)していることだ。平台の拠点の多くは沿海部で、なかでも広東省(全体の22%)、浙江省(同20%)が多い。利率は概ね12-22%で、60%は短期での資金回転となっている。

不良債権比率については、十分な情報開示がないが、白皮書の中で宜信が明らかにしているところでは、返済が90日以上遅延しているものを不良債権とした場合、その比率は2-3%である。全体としては、市場関係者の言として、大半が1%以上で、中には5%を超える不良債権比率のところもある。不良債権比率は、少なくとも表面上はさほど高くはないようだが、白皮書は、借入集中率が通常の銀行融資の場合より高い点に注目している。すなわち銀行の場合、通常大口借入者トップテンの借入額は全体の10%程度にすぎないが、P2Pでは同比率が平均39.1%と、貸付が一部大口借入者に集中している。そのため、いったん大口借入者の中で返済遅延が生じると、平台の資金繰り全般に大きな影響が及ぶリスクがある。また意図的に平台を閉鎖し資金を持ち逃げする悪徳業者も見られる。2011年以降、9業者が閉鎖、損害額は2,600万元以上、しかし立件されているのは、そのうちの2件のみであるという。

(P2Pの変貌—高まるリスクの指摘—金融革新につながるか?)

P2Pのリスクについては、投資者が多数の一般個人であり、リスクを識別し許容する能力が十分でないこと、それにもかかわらず、通常無担保で、また仲介業者への適切な監督がなく、したがって多くの場合、融資先の信用リスクのチェックが十分行われておらず、その審査の過程も不透明であること等、英米でのP2Pと同様のリスクが中国でも指摘され始めている。中国の市場関係者の間では、実はシャドーバンキングの‘本当の地雷’は、理財商品ではなくP2Pだとの声が多い(2月27日投資与理財244期、2012年11月捜狐他)。

P2Pは、よく言われるように、開業規制、業務規制、監督当局という3つの管理がいずれもないという‘三不管’の状態にある。企業法人としての登記が必要とされるだけで(資本金は、ほとんどが2-300万元程度にすぎない)、いったん登記をして開業すると、資金を集めて銀行と同様の資金プールを作り、融資して利ざやを稼ぐ。満足すべき収益率と、投資回収についての一定の安全性が見込めれば、誰に資金を投資するかには関心がなく、借り手を偽装し、集めた資金を自らの懐に入れるといった事例も少なからず見られる。さらには資金の出し手には告知しないまま資産を証券化し、他の顧客、あるいは他のP2P平台に売却し、証券が転々とするといったことまで生じているという。元来、P2P平台は、ネット上で個人と個人の貸借をつなぐだけのものであったはずだが、実際にはP2P平台の名の下で‘発展’した結果、ショッピングサイトの淘宝(タオバオ)のようなものから、極端に言えば中国工商銀行のような存在に変貌しつつあるとの声まである(上記、投資与理財他)。

PPDAIの創業者は、マイクロファイナンスからビジネスのヒントを得たということだが、P2Pは本来、中国を始めとする新興経済でよりニーズがあり、経済発展にも貢献しうる金融革新として評価すべき側面もあろう。ただ、上記のような中国の現状を踏まえると、その潜在的リスクは大きく、放置しておくと金融ひいては社会全体の大きな不安定要因になるおそれが高い。中国のシャドーバンキングへの対応は、今のところ、銀行や信託会社の組成・販売する理財商品が中心のように見えるが、今後、P2Pへの対応がどうなるのか、P2Pが本来のそのメリットや優位性を発揮しつつ、中国の金融改革・革新をもたらすような形で成長することができるのか、注目される。

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