やはり日本人は魚が好き

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2013年07月31日

  • 河口 真理子

土用の丑の日には毎回ウナギのニュースが報道されるが、今年は心なしかウナギの話題が例年より豊富だったように感じる。例年だと老舗のウナギ屋が今年も満席、というような話だけだが、今年はウナギの価格が高騰している中でウナギセールに踏み切るスーパーの話題や、豚肉や鶏肉や野菜を使った「なんちゃってうな丼」で客を集める飲食店の話などが目立った。

「なんちゃってうな丼」で、ユニークだったのは、ナスのかば焼き。ナスの食感がウナギと似ていて好評だそうだ。なお、先日駅で見た雑誌の広告では、「ウナギの次はマグロが消える」というようなヘッドラインを見た。私たちは好物の魚を捕り過ぎ、食べ過ぎではないのか。

マグロやウナギなどの漁業資源枯渇問題は、私たちの生活に直結する大変深刻な問題だが、今回のウナギの騒ぎになるまで、あまり重要な環境問題として日本では認識されてこなかったように感じる。この春から持続可能な水産資源について調査を始めて前回のコラムでウナギとクロマグロが枯渇の恐れがあることを書いた。会話の中で魚の話をする機会が増えたが、驚いたことに他の環境問題の話と比べて魚はすごく「食いつき」が良いのだ。環境問題を専門とする立場からは、森林資源と砂漠化の問題、鉱山の環境破壊、CO2による温暖化、化学物質による生態系破壊、気候変動の激化など、どれも同じように深刻な問題なのだが、こうした話をしてもたいていの場合、「ふーん。それは大変だね。」で、終わることが多い。しかし、今回、魚、特に日本人が大好物のウナギやクロマグロの話をすると皆さんとても熱心に聞いてくださる。それだけでなく「それは大変!どうにかしなきゃ!」という反応が返ってくる。因みに「どうにかしなきゃ!」に続くフレーズには2タイプあり、「ウナギは枯渇寸前だから食べてはいけないね」と「じゃあ今のうちに食べるだけ食べよう」である。こんなところで人間性が出るものだ。

なぜ同じ環境問題でも魚だとこんなに反応が違うのだろう?と最初は驚いたが、私たちの周りを見渡すと、日本人は魚が大好きなことがわかる。魚離れが叫ばれているものの、『平成24年度 水産白書』によると、日本の一人当たり年間の水産物消費量は54kgで、ポルトガル、韓国に続いて3位である。飲食店街を歩いてみると、「新鮮な魚介類」を売りにしている店のいかに多いことかに気が付く。魚が大好きな日本人にとり水産資源枯渇は縁遠い環境問題ではなく、生活問題なのだ。

では、海や魚を大事にしているかというと、一般に社会の意識が高いとは言えない。通常私たちの生活拠点は陸上なので海洋のことは意識に上らないし、海上はともかく、海中に関しては判明していないことだらけでもある。特に3.11で津波による強大な破壊力を見せつけられると、人間が多少海を荒らしても、海洋の回復力・自浄力は元に戻してくれるという母親に甘える不良息子のような気持ちになるのかもしれない。しかし、私たちが乱獲したら魚はいなくなるし、プラスチックや化学汚染物質、海上油田やタンカーの事故などで海洋を汚染すれば、簡単には修復できない被害を海洋生態系にも、私たちの社会生活にも及ぼす。だからこそ私たちが行動すれば、できることも少なくないのだ。

例えばノルウェーではニシンやサバが乱獲のため激減したことを受けて、禁漁に近い厳しい漁獲制限を設け資源管理を行った結果、資源量の回復に成功している。ニュージーランドやペルーなどでも、水産資源管理には積極的である。国内でも、一時は絶滅の危機に瀕した秋田のハタハタも、全面禁漁などの資源管理を行い回復を成功させた。

ウナギに関しても専門家の間では現在回復はほぼ絶望視されているが、絶滅が懸念されるようになった90年代から何らかの手を打てば良かったそうだ。

私たち日本人がこれからも大好きな魚を食べていきたいのであれば、またシェールガスやメタンハイドレート、レアアースなどの海洋資源開発にも注目される中で、海洋国家としての強みを発揮したいのであれば、単に母なる海から「テイク」するばかりでなく「ギブ」できるように海との関係を見直すべきではないか?ウナギも現在100%だめと決まったわけではなく、皆が今決意して禁漁を我慢しその間完全養殖の研究が進めば、子どもの世代には復活するかもしれない。でなければ、30年後の土用の丑の日には、ウナギのような食感の「ウナス」が開発され、「ウナス」のかば焼きを食べながら「昔はウナギって魚をかば焼きにして食べたんだよ」「へえ!あんな気持ち悪い魚を!」などという会話が交わされていることになるかもしれない。

 

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