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設備投資減税の工夫

設備増加分への税額控除型減税、スクラップ・アンド・ビルドへの優遇措置

2013年07月25日

大和総研 顧問 岡野 進

経済成長強化に向けて設備投資減税が政策としてフォーカスされている。この論点を整理してみたい。

新聞報道によると、政府では設備投資減税の手段として、減価償却費を一括して損金に算入する「即時償却」の導入を検討しているとされている。これは、加速償却を極限まで高めた方法といえないこともない。仮に減価償却費を一括して損金に算入できるとすると、どのようなことが起きるであろうか?例を考えてみたい。A社が今年度10億円の税引前利益をあげられる状況にあったとする。仮に今年度に10億円の設備投資を行うと、その10億円を損金とできるため、今年度の法人税はゼロとなる。しかしながら、翌年以降は減価償却で損金とすることはできない。同じ10億円の設備投資を一括償却ではなく何年かで減価償却すると、最終的には減価償却額の総額は10億円となるので、法人税が減る効果は結局同額となる。あえていえば、一括償却は減税メリットがすぐに得られるという点であろう。つまりは減税分の金利相当分だけメリットがあるという考え方ができる。しかし、現在のような低金利の状態では、このメリットの有難みはそう大きいものにはならないだろう。また、一括減価償却は税引前利益額を超えて行ってもメリットは増えないので、税引前利益の見込み額より大きい設備投資を行うインセンティブにはなりにくい。一括償却では企業の設備投資を刺激する効果は大きいものになりそうにない。

設備投資減税を考える上で、まず、「どのような設備投資」を対象とするべきかという点から考えていった方がよいのではないだろうか。その目的に合わせて、おのずと減税の制度設計が決まってくるように思われる。

日本の経済のバランスを資金フロー面から見ていくと、企業部門の大幅な貯蓄超過という問題があり、これが経済全体の需給バランスにネガティブに働いている可能性がある。これを解消することは、すなわち需給ギャップを解消する=景気を良くし失業を減らすことにつながる。これを最大の政策課題とする場合には、企業の貯蓄超過部分、すなわち、キャッシュフローと設備投資額の差額を対象になんらかの税制面からの刺激策をとることは可能かもしれない。例えば、キャッシュフローを超えて設備投資を行った場合に税額控除型の減税を適用することなどである。また、現在の企業の設備投資の規模からいってキャッシュフローを超えることはハードルが高すぎて、少数の企業のみへのインセンティブになる可能性がある。そこで、減価償却を超えた部分を減税の対象とすることも考えられるだろう。この場合には、設備投資の増額を検討する企業はかなり増えるであろうと期待できる。

ただし、この施策は設備投資需要を刺激するという意味において需要サイドにプラスであるものの、企業設備投資のもうひとつの役割である供給サイドの強化=技術革新の適用による全要素生産性の上昇という課題に対しては間接的な効果を期待するものにとどまる。税額控除型の減税が適用されるのは主に設備を増額していこうとする成長企業なので、産業構造をより成長産業にシフトさせていくことにはつながる。しかし、従来産業におけるスクラップ・アンド・ビルドの推進による生産性の向上のインセンティブにはならない。日本経済の課題は、成長産業を育成しながら経済のバランスを改善するとともに、経済全体の生産性をあげていくことであり、これが少子高齢化の進行に対する最大の対策である。であれば、老朽化した設備の廃棄と最新設備への置き換えを促進する税制上の優遇措置も検討されるべきであろう。

かつて多数の日本企業の設備投資意欲が大きく、キャッシュフローや外部からの資金調達が設備投資の制約条件だった時代には、キャッシュフローを増やす法人減税はストレートに設備投資の拡大につながった。しかし、現在は、多くの企業はキャッシュフローがあっても設備投資には慎重である。経済政策としては、成長産業における投資増加を刺激し、成熟企業のスクラップ・アンド・ビルドを推進していく必要があり、まずはそうした日本の産業の構造改善に役立つ減税措置を優先的に実施していくべきであろう。

設備投資の動向を見ていくと、GDP統計上では1-3月期までにまだ底打ちの動きは出ていないが、機械受注は緩やかに持ち直す動きとなっている。そうした転換のタイミングで適切な設備投資減税を打ち出すことは、景気の本格回復と日本経済の成長経路への回帰に大きく貢献すると思われる。

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