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中国:灰色の住宅ローン

住宅価格抑制策の抜け穴

2013年07月05日

金森 俊樹

中国では2009年から2010年にかけての不動産バブルとも言われた住宅価格の急騰を受け、国務院常務会議は、2010年‘国十条’、2011年‘新国八条’と呼ばれる価格抑制策を導入、住宅価格は2011年から12年初にかけて落ち着きを見せたが、12年半ば以降再び上昇し始め、本年2月、常務会議は‘(新)国五条’を決定、4月から実施している。

主要70都市新築商品住宅価格
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(注)保障性住宅を含まない。
(資料)中国国家統計局「70大中城市住宅販売価格変動状況」より作成

(なかなか実効が上がらない抑制策)
しかしながら、その後も住宅価格高騰が沈静化する気配は見られていない。国五条は、基本的には、各地方政府が住宅価格の抑制目標を設定し公開すること、2軒目以降の住宅購入に制限を加えること、上海、重慶で試験的に導入している不動産税の範囲拡大を検討すること等、新国八条の方針を確認したものである。これに基づき、各地方に対し、細則を策定し抑制措置を強化すること、そしてその実行を徹底することを求めている。新国八条、国五条で特に効果が期待されている措置として、2軒目以降の頭金比率を60%以上、金利を基準金利の1.1倍とすること(新国八条で導入)、中古住宅を売却した場合に生じる売却益に対する20%所得課税を厳格に適用すること(国五条)がある。国五条を受け、北京は2軒目以降の頭金比率を60%から70%に引き上げ、また上海は3軒目以降の住宅購入にかかるローンは認めないといったより厳しい細則を導入している。

北京では、特に20%所得課税の影響で、4月以降取引量が減少しているというが、全国的に見ると、総じて住宅市場に目立った影響は見られていないようだ(6月6日付京華時報等)。この要因としては、基本的に、国五条に基づいて出てきた各地方の細則が市場の予想ほど厳しいものではなく、国五条発表の前と後で、状況はあまり変わっていないことが指摘されているが、住宅ローンに関わる以下のような抜け穴が生じてきていることも見逃せない。

(灰色の住宅ローン)
中国各紙は、例えば、次のようなケースを紹介している。地方のある大学に勤務する教授は120万元(約1,800万円)で2軒目の住宅を購入する予定だが、住宅価格抑制策の影響を受け、60%以上の頭金、すなわち少なくとも当初70万元程度の資金を用意する必要が出てきた。あちこちから金を工面しても30万元しか集まらず、どうしても40万元足りない。困った同人を見た仲介業者は‘変道方式’と呼ばれる一種の迂回方式を提案、それによると、現在保有している家を担保に、それを補修する名目で銀行融資を申請、銀行は審査の後、補修業者の口座(実は同人の親戚の口座)に金を振り込み、本人は直ちにそれを現金化するというものだ。そして仲介業者は、これによって5,000元の仲介料を稼ぐことになる。このように、住宅を担保にして借りた消費ローンが、回りまわって2、3件目の住宅購入資金に充てられるという‘灰色房貸(住宅貸付)’が広範に発生している。200万元以下の場合は通常、既存住宅の補修・改築を目的とし、それ以上の大きな融資が必要な場合は、書画骨董への投資を名目にする場合が多いという。中国でよく言われる‘上有政策、下有対策(上から政策が出ると、下からは対策が出てくる)’の典型事例のひとつとも言える。人民銀行が発表している金融機関消費ローンの統計を見ると、2011年以降、通常、住宅ローンが含まれているはずの中長期ローンのシェアが低下する一方、短期の消費ローンのシェアが急拡大している。

個人向け消費ローン残高推移
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(注)カッコ内はシェア%

(資料)人民銀行「金融機構人民元信貸収支表より作成


もとよりこうした手法は違法で、人民銀行、銀行監督委員会は最近、「住宅ローン政策の差別化を徹底・改善することに関する通知」を発出し、銀行に消費ローンの管理を強化するよう求めているが、実効は上がっていない。そもそもニーズが旺盛で監督機関も厳格に取り締まることが難しい他、実は銀行にとっても、通常の住宅ローンに比べ期間が短いこと、利率が高いこと、融資額は担保評価額の通常50%が限度で、住宅価格が下がらない限りリスクも小さいことから、悪い話ではない。したがって、貸し出す場合の申請と用途が異なることに対して、見て見ぬふりをしている場合が多いという。さらに、仲介を行う担保公司の参入規制は緩く、2010年に営業許可制が開始されて以降、全国に8,500社が乱立しており(6月20日付新浪地産網他)、監督は行き届いていない。資金を至急必要としている需要者、高利で借りてくれる顧客を探す銀行、手数料を得る担保公司と、誰にとっても都合が良いことから、関係者の間では当然の慣習として定着している。この他、必ずしも違法というわけではないが、頭金の不足する分をクレジットカードで支払うケースも見られているようだ。銀行は、市場獲得競争の中で、同一個人に対しその信用力をはるかに超える何枚ものクレジットカードを発行していることが多く、かつクレジットカードでの支払いには、通常の住宅ローンのように、住宅が担保にとられているわけでもない。

(シャドーバンキングと同じ議論が)
こうした状況に対し、‘市場重視派’からは、そもそも住宅価格が上昇基調にあるのは、供給が限られる一方で、人々の収入の増加、都市への若い労働力の流入、また投資機会を求める富裕層の拡大から、住宅への需要は不断に増加しているという市場の需給関係によるところが大きく、政府の度重なる抑制策は、むしろ人々に一層の価格上昇期待を与え、(いわゆる‘合理的期待仮説’の下では)人々がそうした期待に基づいて対策を講じることから、政策が意図する効果が打ち消される結果になっているだけだとの冷めた指摘が見られる(4月30日付一財網)。また担保公司についても、現在の金融体系の下で必要不可欠な役割を担っており、単に規制を強化するのではなく、適切な監督の下でより柔軟に営業が行える環境を作り ‘陽光化(表に出す)’ すべきという指摘があり(6月17日付経済参考報)、理財商品に代表されるシャドーバンキングと似た議論が展開されている(7月1日付リサーチ「中国のシャドーバンキング」引用)。それと同時に、灰色住宅ローンは言うまでもなく、短期の借入を実質長期の住宅ローンとして使うという期間のミスマッチを生じさせており、銀行の与信リスクを増大させているという点でも、シャドーバンキングに似ている。6月、インターバンク市場で資金が逼迫し短期金利が急上昇した際、しばらく人民銀行が動かず注目された。シャドーバンキング拡大に走る銀行に対する警告的意味合いがあると市場で受け止められているようだが、灰色住宅ローンが横行し一向に住宅価格抑制策の実効が上がらないことも、金融当局に厳しい流動性調節を採らせている一因かもしれない。

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