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GNI(国民総所得)目標の気にかかる点

対内投資は少ない方が良い?

2013年06月06日

市川 正樹

GNI(Gross National Income:国民総所得)(※1)をGDPに代わる目標に、といった議論がある。

GNIは、名目値の場合は、GDPに海外からの所得の純受取(受取マイナス支払)を加えたものである(実質値の場合には、更に輸出入価格の差によって生ずる所得の実質額である交易利得・損失(※1)が加わる)。海外からの投資収益が含まれるため、今後成熟した債権国になるといった観点から、その目標化が議論される。最近、貿易収支の赤字化の一方、投資収益などの所得収支は黒字で、これを含む経常収支がまだ黒字であることなどもあって、ますます注目されている。

しかし、GNIを目標とすることには、若干気にかかる点があると感じるのは筆者だけであろうか。

名目GNIにおいて名目GDPにプラスされる所得の純受取の内訳は、内閣府「国民経済計算確報」の海外勘定中の経常取引表によって見ることができる。この勘定は、海外部門から見たものであり、支払と受取が日本から見たものとは逆になっているため、注意が必要であるが、以下、日本から見たものに全て置き換える。所得の純受取は、受取から支払を引いたものであり、それぞれについて、大きくは雇用者報酬と財産所得に分かれる。後者は、更に、利子、法人企業の分配所得、海外直接投資に関する再投資収益(※2)、賃貸料に分けることができる。

下図は、この内訳を支払と受取に分けてグラフにしたものである。雇用者報酬は支払より受取の方が大きいが、どちらも他の項目に比べれば非常に小さい。一番大きなものは証券投資などから生まれた利子であるが、これも支払より受取の方がかなり大きい。次に大きなものは直接投資の収益である法人企業の分配所得であるが、これも支払より受取の方がかなり大きい。なお、最近は、法人企業の分配所得の受取額は、利子の受取額にかなり迫ってきている。賃貸料などその他の項目は、それほど大きな額ではない。いずれにしても、所得の純受取は2011年度で14.8兆円程度であり、名目GDP473.3兆円の32分の1程度とまだ小さい。しかし、純輸出は2011年度ではマイナス6.4兆円程度であり、この10年で絶対値が10兆円を超えたことはないので、絶対額では所得の純受取の方がもはや大きくなっている。

利子や法人企業の分配所得の受取から支払を引いた純受取がプラスであってその額が大きいということは、それだけ我が国への投資などの収益が少ないということである。GNIを目標にすることは我が国への投資を相対的に魅力がないものにしようとしているとも取れる。しかし、我が国では対外投資に比べて対内投資が極端に少ないことがかねがね問題視されてきた。また、海外への投資によって得た法人企業の分配所得がどのように国内に還元されるかという問題もある。海外での再投資に向かう分もある。更に、対外直接投資が拡大する分、日本国内での設備投資の減少、ひいては国内事業所の閉鎖などを伴う場合には、空洞化の問題にもつながりかねない。

対内投資は、新たな雇用を作り出し、経済を活性化することなどから、その拡大は大きな政策目標になっており成長戦略な重要な一要素である。他国においても対内投資は促進するのが通常である。また、対外投資については、国内での設備投資の代替であれば、民間投資を喚起するとの成長戦略に齟齬をきたすとも言える。なお、GDPを算出する際には、財貨・サービスの輸入は控除されるが、これらは国内の需要更には雇用を基本的には減らすものであるから、控除されるのは自然である。しかし、GNIにおける海外との所得の支払・受取の場合は、国内の経済成長や雇用などの観点からは、むしろ支払は加算し受取は控除する、つまり純受取は加算ではなく控除と言うくらいの方が、自然なのかもしれない。もちろん、実際にそうすべきというわけでは決してない。

ただし、日本全体で見たGNIではなく、一人当たりGNIということであれば、マクロ的な雇用面などの色彩は薄れ、所得面が強調されると考えることもでき、以上のような問題は少ないのかもしれない。

また、我が国が交易利得・損失のかなりのマイナスを続けていることなどを重視し、それを含む指標を用いる考え方もあり、重要な観点である。ただし、その場合には、実質GNIではなく、交易利得・損失を含むが海外からの所得の純受取を含まない実質GDIを用いた方が、同様に以上のような問題は少なくなる。要するに実質GDPのD(Domestic)はそのままにして、P(Product)をI(Income)に変えるだけにすれば良いのではないか。これもGDP速報の公表資料に毎回掲載されている。

(※1)GNIや交易利得・損失の簡単な解説については、例えば、以下の当社サイト「経済指標を見るための基礎知識 第6回 GDP統計(その3)コンポーネント毎の解説:公需・外需」(2013年1月24日)を参照されたい。
(※2)海外直接投資に関する再投資収益とは、海外直接投資企業の留保利益のこと。実際には直接投資家には分配されないものであるが、93SNAにおいては、直接投資家に財産所得として分配され、その後に同額が再投資されたかのように取り扱う。

海外との所得のやりとり
海外との所得のやりとり
(出所)内閣府「国民経済計算確報」の海外勘定より、大和総研作成

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