環境基本法+20

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2013年06月05日

  • 岡野 武志

「かけがえのない地球」をキャッチフレーズとした国連人間環境会議は、1972年6月5日からストックホルムで開催された。この会議では、人間環境宣言が採択され、国連環境計画(※1)も誕生している。国連では、この会議を記念して、6月5日を「世界環境デー」としており、日本では、1993年に環境基本法でこの日を「環境の日」と定めている(第10条)(※2)。環境の日が定められた目的は、「事業者及び国民の間に広く環境の保全についての関心と理解を深めるとともに、積極的に環境の保全に関する活動を行う意欲を高める」ことにある。

環境省では、環境の日を含む6月を毎年「環境月間」としており、関係府省庁、地方公共団体等の参加と協力の下に、環境の保全に関する普及・啓発のための各種行事が実施されている。今年も、自然環境の理解や自然とのふれあいイベント、クールビズやエコドライブの推進活動、美化活動や不法投棄パトロールなど、全国各地で合計1,384件の行事や活動が実施されるという(※3)。しかし、このような行事や活動には、環境の理解や保全に関するものが多く、環境の復元や改善を積極的に進めるものは少ないようにみえる。

そういう視点で振り返ってみると、これまで普及してきた環境活動には、資源やエネルギーの節約、分別回収やリサイクルへの協力など、経済的にもメリットがあるものや、手軽にできて経済的負担が小さいものが多かったように思える。昨年6月に実施された「環境問題に関する世論調査(※4)」では、循環型社会の形成においても、物質的な豊かさや便利さを維持することを望む趣旨の回答が、全体の半数以上を占めており、経済的負担を伴うことが予想される環境の復元や改善には、国民から理解や協力を得にくいのかもしれない。(※5)

しかし、これまでの量的拡大を質的充実に転換するためには、経済的な負担増は避けられない可能性もある。人口増加に伴って整備されてきた施設や設備などは、人口減少とともに一部が使われなくなることが予想される。送電網や通信網、上水道や下水道など、物理的連続が必要なインフラは、利用されない部分にもコストがかかる。使われなくなったダムや発電所、橋梁やビルなどを安全に廃棄するのにもコストはかかる。そして、人口減少社会で、課題解決が先送りされれば、より少ない人数でその負担を背負うことになる。

人口減少や少資源、環境問題などを克服しながら、これからの経済社会を発展させていくためには、太陽や土、植物や水など、さまざまな自然の恵みを活かしていく視点が重要であろう。そのためには、これまでの環境保全からさらに踏み込んで、新たな発想で環境の復元や改善を進めていくことが必要になろう。伐採された森林、堰き止められた川、コンクリートの護岸などが、何もせずに元に戻ることはない。環境基本法制定から20年、環境の日が、課題克服に向けて自然の恵みを取り戻す契機となることを期待したい。

(※1)国連環境計画(United Nations Environment Programme, UNEP)」外務省
(※2)環境基本法」法令データ提供システム
(※3)平成25年度環境月間について(お知らせ)」(平成25年5月28日)環境省
(※4)「環境問題に関する世論調査(平成24年6月調査)」内閣府
(※5)循環型社会・自然共生社会は豊かさを維持しながら -環境問題に関する世論調査から-」2012年8月24日掲載ESGニュース

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