ウナギもクロマグロもパンダ並み? 今こそ持続可能な漁業を考えよう。

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2013年05月30日

  • 河口 真理子

5月15日から17日、米国カリフォルニアのモントレーベイ水族館にて、持続可能な食に関するイベントに参加し、日本企業のCSRと海洋資源保護について話をする機会を得た。このイベントには全米のマスコミ関係者や料理関係者、研究者、NGOなど持続可能な海産物に関心の高い人たちが参加したのだが、参加してみて彼らの海洋資源枯渇に対する危機感と、通常の日本人の感覚にきわめて大きなギャップがあることに愕然とした。ちなみにモントレー市は、20世紀初頭から第二次世界大戦までイワシ漁とイワシ缶詰製造で栄えた町で、その缶詰工場の光景はノーベル賞作家のスタインベックの小説「キャナリー・ロウ」の舞台としても有名である。しかし1950年以降なぜかイワシが全く捕れなくなり町は壊滅的な打撃を受けた。その後、海岸沿いに並ぶ缶詰工場跡地をホテルや土産物屋に再生させ、一帯の海岸をサンクチュアリとして徹底的に保護し、岸から肉眼で観察できるアザラシやラッコを売りにした、今では米国でも有数の観光地として復活した町でもある。イワシで栄えイワシで打撃を受け、海洋資源が絶滅するリスクを体験した町モントレー。ここに海洋資源保護をミッションとするパッカード財団が設立したモントレーベイ水族館は、知る人ぞ知る、海洋資源保護に関する情報発信の拠点でもある。その拠点にて、世界の海洋資源が人間の乱獲によって急速に減っていること、またサンゴやイルカ、海鳥、カメなどの生物や生態系も底引き網や巻き網などによって大きくダメージを受けていること、一方で魚類を保護し資源管理を徹底すれば海洋資源は回復すること、などを学ぶ機会を得た。

日本人の魚離れが叫ばれているが、依然として日本は世界で最も魚を食べる魚大国でもある。しかし環境保護問題の中でも、森林資源問題や農業問題、エネルギーや鉱物資源の問題と比べると海洋資源枯渇に関する情報は格段と少ない。たとえば、昨年高騰したウナギ。日本人は世界のウナギ消費量の6-7割を消費するといわれている。食用のウナギには、ニホンウナギ、ヨーロッパウナギ、アメリカウナギ、オーストラリアウナギがあるが、いずれも大幅に減少している。ニホンウナギの場合、親ウナギ漁獲量は1961年の3,400トンから最近では200トン程度に減少。同様にアメリカウナギもヨーロッパウナギも過去数十年で急減している。国際海洋探査委員会(International Council for the Exploration of the Sea)の調査で、ヨーロッパ12カ国の19の河川で漁獲されたウナギの稚魚は、1980年~2005年までに、平均で95~99%減少したという。その要因としては、化学物質や河川のダム化に加え人による乱獲がいわれている。そしてその乱獲の最大の理由は日本人である可能性が高いのだ。

戦後から高度成長時代まで、ウナギは、「お客さん来たからウナギでもとろうか」に代表される、ウナギ屋でさばいて焼いてもらうハレの料理であった。しかし90年代以降、安い手頃な価格のウナギがスーパーや外食チェーンに出回るようになる。それはニホンウナギの生産量が回復したからではない。その代わりにアメリカやヨーロッパのウナギの稚魚を中国に輸出し中国で養殖した養殖ウナギを大量に輸入し始めたのである。北米や欧州のウナギはそのために漁師が乱獲して激減したといわれる。通常養殖というと産卵から食用になるまで育てて資源量を管理しているイメージがあるが、ウナギの養殖の場合、商業レベルでは産卵できないので天然の稚魚を捕ってきて養殖池で育てるだけである。よって食べれば食べるほどウナギ資源は減っていく。乱獲の結果2009年にはヨーロッパウナギは絶滅の危惧ありとしてワシントン条約で国際取引が規制されるに至った。

昨年のウナギ高騰時のマスコミ報道では、ウナギの稚魚が世界的にいなくなる中で、中国人のウナギ消費量が増えたためと説明された。ウナギ激減の背景には複雑な要因があるとされるが、最大の要因の一つに、私たち日本人がウナギ資源を大事にせず、世界のウナギをすでに大量に食べてしまっていたことも忘れてはいけない。

同様に日本人が大好きで乱獲のおかげで激減している魚にクロマグロがいる。これも国際機関、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)が2012年12月に公開した科学調査報告では、漁獲がなかった時代の資源量の3.6%程度に減少しているという((注)勝川俊雄 三重大学准教授、公式ブログより)。クロマグロについては2010年ワシントン条約で国際商取引を全面禁止種リストに加える提案がされて話題になったため記憶にある方も多いだろう。結果として国際交渉の結果、禁止にはならなかったものの、クロマグロ資源量は大幅に減ったままであるし、有効な資源回復手段はとられていないという。ちなみに、マグロにはクロマグロ以外にビンチョウマグロやキハダマグロなど多種あるが、メジマグロはご存じだろうか?これは新種のマグロではなく、体長50-60センチのクロマグロの稚魚である。成魚を捕ることが問題になっている魚の稚魚を私たちは知らずに食べていることになるのだ。ちなみに今回のイベントでも、「日本人は海洋資源を乱獲しているが、どう考えているのか?」という論調で話をされることが少なからずあった。日本人の魚に対する姿勢との大きなギャップがそこにある。

今回モントレーのイベントで講演した英国の有名シェフで海洋保護活動家のHugh Fearnley-Whittingstall氏は彼の魚料理の本の中で、クロマグロについて「スシバーでは、勧められても食べないように。あなたはパンダを食べますか?」と記載している。

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