歴史は繰り返す?

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2013年05月27日

  • 齋藤 勉

4月の質的・量的金融緩和の導入以降、長期金利の変動が激しくなっている。緩和の直後には10年債利回りは低下し、過去最低の0.315%まで低下した。しかし、その後上昇に転じ、5月23日に、10年債利回りは1年2ヶ月ぶりに一時1%を超えた。

一般的に、金融政策の波及経路を考える上では、長期金利の低下は貸出の動向や資産価格、為替レートに影響を与え、実体経済の浮揚につながると想定されている。そのため、金融緩和は基本的に長期金利の低下を意図しており、結果的に金融緩和が長期金利の低下に結びつくことが多い。

しかし、過去の歴史を紐解くと、ちょうど10年前の日本で現在と同じような状況が生じていたことがわかる。2003年3月に福井俊彦氏が日銀総裁に就任すると、4月、5月と連続で金融緩和の強化が行われ、その結果として10年債利回りは当時の過去最低水準を記録した。しかし、10年債利回りが過去最低水準を記録した数日後、20年債の入札が低調な結果になると突如として国債の利回りは上昇した。いわゆるVaRショックである(図表1)。

確かに、直接の原因やその他の外部環境は2003年と現在では大きく異なる。しかし、金融緩和の強化の後に短期的に長期金利が低下し、その後長期金利が上昇したという結果自体は現在とほとんど変わらない。利回りの変動の大きさを示すヒストリカルイールドボラティリティを見ると、現在の水準は2003年と同程度まで高まっており、歴史は繰り返すのだと再確認させられる(図表2)。

それでは、長期金利上昇後には何が起こるだろうか?10年前の経験では、VaRショック後の10年債利回りは1%~1.5%程度での推移が続いた。この時期は積極的な金融緩和が続けられていたにもかかわらず、である。こうした事例を踏まえれば、今後も長期金利が高止まりすることも考えておくべきだろう。

しかし、2003年後半以降と言えば、景気は踊り場を脱して戦後最長の景気拡大を実現していった時期である。債券市場が一時的に不安定化し、金利が1%を超えていたとしても、経済に与えた負の影響は大きなものではなかったと考えられる。

もちろん、長期金利は安定している方が望ましい。しかし、金融政策では長期金利を思うようには動かせないということは過去の経験からも明らかである。重要なのは、2003年以降の経済成長の「歴史を繰り返す」ことができるか否かではないだろうか。

図表 1 10年債利回りの推移の比較

図表 1 10年債利回りの推移の比較
(出所)Bloomberg、各種資料より大和総研作成

図表 2 10年債利回りとヒストリカルイールドボラティリティ

図表 2 10年債利回りとヒストリカルイールドボラティリティ
(注)ヒストリカルイールドボラティリティは過去30日のボラティリティの年率値。
(出所)Bloomberg、各種資料より大和総研作成



 

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