米国SECのシャピロ・クザーミ体制終了

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2013年03月21日

  • 吉川 満

米国オバマ大統領の二期目がスタートした。これに伴い、2012年12月4日にはメアリー・シャピロSEC委員長が退職し、2013年2月にはロバート・クザーミ執行部長が退任した。シャピロ委員長の在任期間は2008年金融危機の直後であったから、言うまでもなく大変に多忙であった。シャピロ委員長がどういう点に力を入れてこの任期を乗り切ったかというと、次の二つの点を忘れることができない。第一には十分に機能しなくなっていた証券金融法制を全面的に見直したことであり、これは具体的にはウォール街改革及び消費者保護法(通称:ドッド・フランク法)として結実した。第二に、金融危機を誘発した要因の一つと指摘されることもある違法取引の増加に対処する為、執行部門を大幅に強化したことである。シャピロ委員長は証券金融法制の見直しについては、議会証言を積極的に行うなど自ら率先して行っていたが、執行部門の強化についてはクザーミ部長にほぼ全権を委ねて、間接的にコントロールしていた面が強かったように思われる。いずれにしても2012年12月、2013年2月の2回の人事異動でオバマ政権第1期のSECを支えた中心人物は二人とも交代したことになる。それではこの二人の任期は長かったのだろうか、短かったのだろうか。この点に関して2012年11月26日の「メアリー・シャピロ委員長は来月退任の予定」と題されたニュースリリースは次のように述べている。「シャピロ委員長はSEC委員長として在任期間が最長の者のうちの一人である。在任期間は、これまでのSEC委員長28人のうち、24人を上回っている。」(※)

一般のSEC委員も状況はほぼ同じであると考えられるからその通りだとするとシャピロ委員長とクザーミ部長は、大変に多忙な時期のSECを大きなミス無しに乗り切ったことになる。(ちなみにSEC委員長の任期は、他の省庁トップの任期に比べてやや短めである。これは財界の大物や、金融機関の重鎮とも渡り合うことが多いので、SECトップの負担が過大なものとならないようにする為だと考えられている。)

シャピロ委員長とクザーミ部長の担当した分野は、違法取引が増えて金融危機からの立ち直りを考えなければならない時期としてはどちらも同じように重要なものであったが、ここではこれまで紹介されることの少なかったクザーミ部長の担当した分野をもう一度眺めておこう。

「執行部門のロバート・クザーミ部長、SECを退任する予定」と題された2013年1月9日付のSECのニュースリリースは次のように述べている。「クザーミ部長の任期中、執行部門は金融危機に関連する多くの有意義な活動を行い、インサイダー取引や、投資顧問業者及び投資会社の不正行為を含む記録的な数の立件を行った。」確かにクザーミ部長の下でのSECの立件活動には目を見張るものがあり、SECのニュースリリースを見れば、ハイペースの立件活動が、昨年一杯まで続けられていたことが明らかである。

続いてニュースリリースは次のように述べている。「クザーミ部長のリーダーシップの下での他の業績の中でも執行部門がSEC史上最大のリストラを行った後で、2011財政年度と2012財政年度と2年続けて史上最大数の立件を行ったことは特筆できる。(筆者注:2011年度は735件、2012年度は734件の立件が行われたのである。)このリストラは手続きを合理化し、金融検査を促進したのである。」(※)

「史上最大のリストラ」とは具体的には、ドッド・フランク法の成立(2009年)と、それに伴う組織改正のことである。ここで明確に述べられている様にSECのトップ二人が分担した分野のうち、具体的にはシャピロ委員長が分担した部分(証券金融法制の全面的見直し)が2009年という比較的早期に実現し、クザーミ部長の分担した部分(執行部門の強化)がその後全期間にわたって、継続されることになったのである。もちろん証券金融法制の見直し作業はボルカー・ルールやデリバティブ規則作成作業のように現在もなお作業中のものも少なくないが、執行部門の強化作業に比べれば先行して完了したわけである。さらにニュースリリースは次のようにも述べている。「前SEC委員長のメアリー・シャピロ氏に1990年2月に執行部長に指名されてから、クザーミ氏は金融危機時に行われた不正行為を追及することに優先的に取り組むようになった。」(※)

なぜこのような迅速な対応が可能だったのかといえば、クザーミ部長は連邦検事局検事を振り出しとするキャリアの中で一貫して、証券・商品関連の違法行為を摘発する立場に近い所に身を置いて実務面の経験を積んで来たからである。 

以上メアリー・シャピロ委員長が任期を余裕をもって乗り切った理由は、ドッド・フランク法を早期に成立させる一方で、クザーミ部長という有能な部下を登用して執行部門の強化や組織作りにも欠けることがなかったことであると思われる。

(※)SECホームページ

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