経常黒字は当面必要

—のぞまれる日本企業の外国企業M&A積極化

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2013年02月28日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

日本はどうやら構造的に貿易赤字国となってしまったようだ。これは、20年も前から2010年代に起こるだろうと予想されていたことで、それ自体には大きなサプライズはないと思う。筆者自身が1996年に行った長期予測では、貿易収支はもう少し前に傾向的な赤字になり2010年代は海外経常余剰(国際収支上の経常収支に相当)が赤字に陥ると予想していた。人口の高齢化に伴って供給力の成長が限定されていくことなどから、黒字が恒常化していた構造が変化すると予想したのである。どちらかというと、現在も経常収支がなんとか黒字傾向を保っている理由を考察すべきということになるだろう。

これには、いくつか理由があると思われる。ひとつは、内需がずっと停滞傾向であったために供給の制約もさることながら需要サイドの停滞で貿易黒字が比較的長く続いた点が考えられる。そして、120兆円ほどでピークアウトすると予想した対外純資産は265兆4,260億円(2011年末、財務省「対外資産負債残高」)にも達し、ここから得られる所得収支の黒字が大きなものとなっている状況がある。ただし、一方で財政赤字の悪化は予想以上で国債発行額も予想よりずっと多い。それでも金利上昇の悪循環が発現してこなかったのは、マクロ経済バランスの結果として経常収支黒字が続いているからだともいえる。

所得収支において、その収益性という点でみると、債券投資や貸付に比べて直接投資や株式投資はリスクを伴うものの収益率は高い。特に直接投資は投資額自体の価格変動は大きくなく、収益は株式投資に比べて安定的で、日本企業の技術など潜在力を活かして収益向上を図れるので、そのメリットは大きいと思われる。

現在、直接投資残高は74兆2,890億円(同)で、1996年末と比較すると約2.5倍になっている。順調な拡大といえるが、どちらかというと日本企業が直接的に外国に子会社を作りその留保利益を再投資してきたという性格が強い。それ自体は地道な努力で基本だと思う。しかし、直接投資、すなわち外国において企業活動による収益を追求するのであれば、日本企業はもっと外国企業のM&Aに積極的になってよいのではないだろうか。

米国の対外資産負債残高をみると、4兆302億ドルの負債超過(2011年末、BEA「国際投資ポジション」)であるにもかかわらず、収益性の高い直接投資残高が4兆6,815億ドル(同)と大きく、これが所得収支を支えている。直接投資残高の水準は、日本の5倍以上である。米国自身の1996年末と比較しても、約4.7倍と急ピッチで拡大してきた。日本企業はこの15年間に米国企業に相当水をあけられている。こうした拡大はかなりの部分が、外国企業のM&Aによって行われた面も強い。

日本企業も自らの潜在力を活かしつつ外国企業のM&Aに積極的に取り組む姿勢がないと、企業活動のグローバル化の中で取り残されていくことになる。マクロでみれば、国際収支の上でもチャンスを活かせない状況を生む。せっかくの対外純資産、つまり過去の経常黒字の蓄積を活かせず、所得収支も停滞して、経常赤字に転落すれば、悪い金利上昇につながり、日本もたちまちソブリン危機に陥るリスクもある。日本企業の外国企業へのM&Aにおける活躍を期待したい。

対外資産の内訳
対外資産の内訳
出所:財務省「対外資産負債残高」

 

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