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地銀業界で普及が進む株式報酬型ストック・オプション制度

2013年02月04日

風間 真二郎

役員報酬に、権利行使価格が1円であるストック・オプション(株式報酬型ストック・オプション(以下、ストック・オプションを「SO」と略す))を導入した企業が地銀業界では今2012年度までに6割強(※1)に達した。株主重視の経営から、業績によらず固定的・年功的な役員退職慰労金を廃止する動きが背景にある。「我社の有価証券報告書に役員退職慰労金の文字はない。」という訳だ。ただし、単純に役員退職慰労金を廃止するだけでは、役員の総報酬が減ってしまい士気が低下するだろう。通常の報酬に役員退職慰労金の額面金額を上乗せする方法もあるが、税制の違いにより、手取り額は低下する(※2)

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直接株式を経営者に持たせるのが難しい中(※3)、株式報酬型SO制度は、実質的に株式を持たせるのと同等の経済効果があり利便性が高い。役員報酬制度にかかわらず株主価値を重視する経営者もいるが、「私は株式と結婚している」オーナー系経営者ならいざ知らず、そうでない通常の場合、固定報酬だけではインセンティブが働きにくい。極端な場合、コーポレートガバナンスがうまく機能せず、オーナーでもないのに「朕は会社なり」とばかり公私混同した経営者が現れ、“暴君”として君臨するかもしれない。その場合、報酬制度は「経営者の経営者による経営者のための」報酬制度となってしまうだろう。安全装置として、株主総会で取締役を解任すること(会社法第三百三十九条第1項)も認められているが、実際はなかなか実行できないだろう。そういったことも踏まえ、卓越した名経営者にめぐりあう僥倖を待つのではなく並みの名経営者であっても機能し、“暴君”を抑制する報酬制度が望まれる。そこで株主のリスクとメリットを株主と共有する株式報酬型SO制度の出番となる(※4)。役員退職慰労金の代替として導入される場合、権利行使されない可能性がある通常型SO(※5)よりも株式報酬型SOが好まれる。かつて消極的であった議決権行使助言機関も最近では株式報酬型SOの議案に原則賛成するようになったようだ。「株価を上げてくれるなら通常型SOでも株式報酬型SOでも良いSOだ」という訳だ。報酬制度の対象となる経営者側からすると新規選任から退任まで実質的に株式を持つことになり、本音では「株式報酬SO制度は重き荷を背負いて遠き道を行くがごとし。」と揶揄されることもあるようだが、株主の立場からはこれほど、目的と同じベクトルの報酬制度もない。複雑な法令・制度や専門の会計基準を理解し、手間やコストが掛かっても結局導入されるのは、なぜか。英国首相を務めたチャーチルが膨大な手間やコストが掛かるにもかかわらず必要であると民主主義を持ち上げた表現「民主主義は最悪の政治形態だ。これまで試されたそれ以外のいかなる政治形態を除いては。」になぞらえれば、「株式報酬は最悪の報酬制度だ。これまで試されたそれ以外のいかなる報酬制度を除いては。」となるだろうか。

(※1)地方銀行協会加盟行で未上場企業を除く57行が対象。複数の子銀行を持つ持株会社は上場単位で1行とカウント。第二地方銀行協会を含めても半数以上が導入(未上場除く)。3メガバンクも株式報酬型SO導入済み。
(※2)役員退職慰労金であれば(条件によるが)退職所得課税に該当する場合が多いと思われ、その場合、退職所得控除等により通常報酬の給与所得課税より税制上有利。
(※3)大和証券グループは、自己株式を役員や従業員に付与する制度「DSTEP(Daiwa STrategic Equity Plan)」のビジネスモデル特許を有している。
(※4)税務当局の判断になるが、制度設計により退職所得課税となる場合がある。
(※5)1円SOでないSO。権利行使価格を株式の時価以上とする等、いくつかの条件を満たし、税制適格SOとして設計・付与されることが多い。株式報酬型SOに比べ当初の報酬費用は抑えられるが、アットザマネー(行使価格=時価)で発行される場合、行使されるか行使されないかは理論上半々である。

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