不安だからこその楽観の年に

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2011年01月13日

  • 調査本部 常務執行役員 調査本部 副本部長 保志 泰
新年に入り、日米の株価は堅調な展開で始まった。米国で良好な経済指標の発表が相次ぎ、同時にドル高・円安の動きとなったことが日本の株価も押し上げた。昨年後半は“景気二番底懸念”が市場を覆っていたが、米国で量的金融緩和(QE2)に減税延長が加わり、景気楽観論が強まっている。米国ではとくに株高による資産効果が期待されることから、先行き楽観論が一層広がる可能性もあるだろう。

もっとも、一方で抱える様々な不安要素が一気に解決するわけではない。最大の不安は何と言っても財政リスクであろう。欧州の火種は燻り続けており、いつ再燃してもおかしくはない。日米でも財政懸念などから思わぬ金利上昇(国債売り)のリスクも忘れることはできない。さらには、米国でのデレバレッジの継続や、新興国における引き締め懸念など不安要素には枚挙に暇がない。

実のところ、これら不安要素があるからこその楽観論である。不安だから金融緩和が継続し、株高を通じてセンチメントが改善するという好循環が生まれている。日米の政局で同時に発生している“ねじれ議会”の構図も、この循環を支援する“不安要素”の一つと言える。政権の望む政策の実現が困難になり、勢い、金融政策に負荷がかかるという日米共通の構図である。ねじれ議会は容易に解消しないから、多少センチメントが改善しても、金融緩和の手綱を緩めることは容易でない。逆に、ここで楽観論が打ち勝ち、早期に金融引き締めに向かえば、株高がストップして景気の推進力が失われる、という懸念すらある。不安と楽観は微妙なバランスで共存しているのである。

今後広がるかもしれない楽観は、不安要素を少しずつ緩和する効果を持つだろう。しかし、ぼやぼやしていると、一時的な恩恵にあずかるだけで循環は終わってしまう。実は過去20年間の日本はその繰り返しであったと言っても過言ではない。円安になると、輸出産業を中心に業績が大幅に好転するが、期間収益の回復に安心するだけで、将来に向けた構造変革がおろそかにされてきた感が強い。財務安定性確保を言い訳に、手に入ったキャッシュは野積みされたままとなった。そうこうする間に好循環は終わり、環境悪化で再び何もできなくなる。だから楽観に転じたときこそ、近視眼的な不安解消に甘んじずに、長期的な目線での成長の種まきや構造改革に早々に着手するべきなのである。

12年前のうさぎ年、1999年も金融危機直後と2000年問題という大きな不安の中に金融緩和が強化され、楽観論が広がり株価が大幅に上昇する年となった。しかし、日本の非効率な産業構造の改革に本格的に着手することはなく、ITバブル崩壊から次なる金融危機に至るという苦い経験を経ることとなった。今年は、同じ轍を踏むことのないよう、企業も個人も、そして政府も、将来に向け事を始めるべき年となろう。

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保志 泰
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