電子化で影響が拡大したフラッシュ・クラッシュ

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2010年05月24日

  • 古井 芳美
米国市場で2010年5月6日に発生した株価急変から2週間ほど経過した。現在でも各種メディアで報道が続いており、ウィキペディアでは新しい用語として「フラッシュ」のように一瞬で株価が急落したため、「2010年5月6日フラッシュ・クラッシュ(May 6th 2010 Flash Crash)」と定義されるなど、その関心の高さがうかがえる。

特に、多くのメディアで1987年のブラック・マンデーと比較したかたちで報道されているのが目立つ。ブラック・マンデーではダウ平均株価が一日で約20%下げたのに対し、今回の下げ幅は約9%、急変も10分程度であり範囲が小さかったといえる。これに対し、取引株数は192億株となり、ブラック・マンデーの6億株よりも格段に大きかった。この違いは、1987年にも電子取引は行われていたものの、現在のミリ秒単位の高速低遅延のシステム取引とは異なっていることによる。つまり、取引市場の電子化を追求した結果、短時間で市場が正常化するものの影響が瞬時に広がることを示している。

また、ブラック・マンデーと今回の株価暴落の共通点として、特定の銘柄に対して流動性が提供されなくなったことが挙げられている。1987年は、立会場のトレーダーといった大手機関投資家が取引を停止した。これに対し今回は、システムによる高速かつ大量の取引を行うトレーダーやヘッジファンドといった参加者の一部がボラティリティの高まりを嫌い売買停止したとされている。

このように、株価急変の発生原因を追求することで、積極的に電子化を進めてきた米国市場の弱点が明らかになるという見方もあり、証券市場の参加者全体で6日の事象に関する議論が進められている。先週18日、SEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物委員会)が株価急変の発生原因を分析した結果を発表した。当初、誤発注など様々な原因が指摘されたが、報告書では「複数の要因が重なったためであり未だ明らかではない」としており、今後も調査が必要であるとされている。加えて、再発を防ぐため様々な対策も打ち出されている。中でも、市場横断的に統一されたサーキット・ブレーカーの導入(※1)が早期の対策としてSECより挙がっている。これは、米国では同一銘柄を扱う取引システムが40個程度存在しており、取引システム間でルールが異なっていることが6日のクラッシュを促進したとの見解に対応するものである。

今回の株価急変により、システム化を推し進めた結果が証券市場に与えた影響を細かく検証する良い機会になったことは間違いない。日本国内では、東証以外の代替市場(PTS)での取引シェアが低く、米国と似たような現象が発生する可能性は極めて低い。しかし今後、高速に大量の取引を行う投資家の国内市場への参加やPTSの発展が見込まれ証券市場の電子化が想定できる。万が一に備えて、市場の急激な変化があった場合、どのように対応するのか事前に検討するのも良いだろう。

(※1)この規制の内容は、6月14日から12月までの半年間、試験的にS&P500の銘柄毎にサーキット・ブレーカーを導入する。株価が5分間に10%以上変化した場合には、5分間取引を停止するというものである。

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