1. トップ
  2. レポート・コラム
  3. コラム
  4. 2010年:カネ余り激化の年に

2010年:カネ余り激化の年に

2009年12月21日

調査本部 執行役員 調査本部副本部長 兼 金融調査部長 保志 泰

2010年の金融資本市場を一言で展望するなら、“カネ余り激化”の年になるのではないかと思う。金融危機に至るカネ余りを作り出した米金融機関のレバレッジ拡大は逆回転を始めているにもかかわらず、原油価格は大きく反騰し、新興国株価には新高値更新目前の国もあるなどカネ余り状況が再現している。では、今のカネ余りはどういうプロセスで発生しているのか。起点は言うまでもなく世界の同時金融緩和、とくに米国の金融政策である。かつて2003年にFRBがFF金利を1%に引き下げて1年間放置した結果、バブル醸成につながったとの見方もあるように、米国の金利政策は米ドルを中心とした世界のマネー動向に絶大な影響を及ぼすのである。FRBが昨年12月にFF金利を0~0.25%に引き下げてからすでに1年が経過した。市場の見方では利上げに転換するのは来年秋以降とされ、2年間もゼロ金利が続くことになるわけである。

世界景気にはそれなりに底入れ感が出たものの、回復テンポはいまだ不確実である。おそらく金融政策にはまだまだ緩和への圧力が加わり続けるだろう。FRBの流動性供給策は絞られてゆくことになろうが、カネ余りの起点となる金利に手をつけるまで、それなりの時間がかかると思われる。米国株式市場における経験則から言えば、不況下でも政策金利が低位に安定している間の株価は上昇基調を維持し、景気が回復して利上げに転じた途端に株価上昇が止まるのである。市場を動かすカネに対して金利が及ぼす影響がいかに大きいかを端的に示している。

カネ余りが激化すると見る理由は金利政策だけではない。マクロ的にみれば、カネ余りの底流には先進国企業部門の資金余剰が以前より指摘されてきた。要するに稼いだキャッシュフローに対して設備投資に振り向けるカネが少なすぎるのである。この状況は、業績回復過程の来年にとくに激しくなると予想される。企業は合理化を追求し利益を捻出するが、新規投資に対しては極めて慎重である。かつて日本企業はそうした余剰資金で債務返済に明け暮れたが、現状で過剰債務を抱えた企業は減り、キャッシュで余剰資金を抱える企業が増えるだろう。

では、そうした余剰資金はどこに向かうのか。一つは、何らかのルートを通じて証券市場に還流して行く可能性である。そうなれば、株式などの資産価格を押し上げ、長期金利には低下圧力が加わる。自己資本比率規制強化の流れのもと、金融機関が低リスクの国債保有を選好すれば、金利低下に拍車をかけるだろう。金利が低下すれば、高利回りを求める資金が国外(とりわけ新興国)に流出し、通貨(ドル、円など)が下落する可能性も出てくる。

もう一つの行き先は、実物ないし直接投資の増加である。具体的には企業買収(M&A)やプライベートエクイティ投資などが大きく膨らむ可能性がある。昨年来、世界のM&AはLBOの低迷などにより大きく縮小したが、カネ余りが強まればレバレッジをかけず(借入をせず)とも大型の企業買収に踏み切れる企業が増えると見られる。先進国企業ばかりでなく新興国に流入した資金がM&Aの形で世界に還流する可能性も高い。

ところで、カネ余りの弊害が懸念されている。すでに、一部の新興国では不動産価格などでバブルの発生が懸念されている。実体の伴わない資産価格バブルは必ずや破裂する。それがいつかを予言するのは困難だが、少なくともFRBが利上げに転じる前に破裂する可能性は小さそうだ。一方で、先進国企業の資金余剰を背景とした直接投資の盛り上がりは、金融政策と関係なくしばらく続く可能性が高いだろう。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

保志 泰

執筆者紹介
調査本部
執行役員 調査本部副本部長 兼 金融調査部長 保志 泰