内需拡大が期待される中国
2009年02月24日
後に米国財務長官に指名されることになるガイトナー氏が1月22日、「新政権としては中国が為替操作をしているという認識を持っている」ことを表明したことから、しばらく収まっていた中国の為替政策に対する議論が急速に高まった。直後に、中国人民銀行の蘇副総裁がガイトナー氏に反論。さらに31日には、ロンドンを訪問していた温家宝首相が、米国債の大量購入を見直す可能性を示唆するような発言をし、中国の為替政策に対する米国の介入を牽制した。また、中国人民銀行の周総裁も、現状の人民元水準が妥当であるとの見解を示し、昨年半ばより人民元の上昇を見合わせている為替政策の正当性を強調した。
これに対してガイトナー長官は2月10日「米政権として中国が為替操作国かどうかの最終判断は下していない」との見方を示し、当初の発言を修正した形となった。
一方、17日には、中国の国家発展改革委員会の張副主任が「人民元が6.95~7人民元/米ドルまで下落する可能性がある」とコメントしたとの報道が流れると、翌日には同委員会が、それをあわてて否定している。ガイトナー発言から1ヶ月をへて、米中共に、為替政策についての議論を当面棚上げにすることで暗黙の了解ができたように見える。クリントン国務長官の訪中、4月に予定されているオバマ大統領と胡主席との会談を控え、無用な軋轢を避けたい、という政治的な配慮もあったのかもしれない。ただ中国国内でも、輸出企業の大量倒産、大量解雇を目の当たりにして、人民元安による輸出増を図りたい、という意見は根強いに違いない。
しかしながら、中国の輸出減少は、中国の価格競争力の低下というよりもむしろ外需低迷によるものであり、人民元を切り下げたからといってすぐに輸出が回復するわけではない。こうした状況下、為替切り下げにより輸出を増やそうとすれば、余剰生産能力の合理化をいたずらに遅らせ、ひいては米国内の保護主義の台頭を促すことになりかねない。
また、輸出減にもかかわらず貿易黒字が拡大しているのは、中国の輸入が輸出を上回る勢いで減少しているためである。貿易黒字の増大が為替上昇圧力に結びついているのであれば、国内消費を刺激して輸入を増やすことが必要になる。
昨年11月に打ち出された4兆人民元の景気対策は、銀行貸し出しの急増、鉄鋼価格の反発といった形で一部顕在化し始めている。3月の全人代では改めて、内需拡大への意思表明がなされるはずである。中国が引き続き内需拡大に邁進することが、中国にとっても世界にとってもまさに必要とされている。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2022年07月01日
2022年5月雇用統計
失業率は4カ月ぶりに上昇するも、均して見れば雇用環境は改善傾向
-
2022年07月01日
2022年6月日銀短観
外部環境悪化と国内経済活動再開が製・非製の業況の明暗を分ける
-
2022年07月01日
ディスクロージャーワーキング・グループ報告(コーポレートガバナンスの開示等)
-
2022年07月01日
内外経済とマーケットの注目点(2022/7/1)
米国の景気後退懸念と中国の経済再開期待が入り交じる可能性も
-
2022年06月30日
検証: レバレッジ型ETFへの長期投資
よく読まれているコラム
-
2021年12月01日
もし仮に日本で金利が上がり始めたら、国債の利払い費はどうなる?
-
2022年01月12日
2022年米国中間選挙でバイデン民主党は勝利できるか?
-
2022年05月31日
先進国からの制裁を浴びるロシアの通貨ルーブルが大幅上昇
~一旦半値に、その後資本規制により6年10カ月ぶりの高値へ~
-
2022年04月21日
日本経済はウクライナ危機・感染拡大の下で「悪い円安」に直面
-
2015年03月02日
宝くじは「連番」と「バラ」どっちがお得?
考えれば考えるほど買いたくなる不思議