未上場バイオベンチャーの存続をかけた戦い

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2009年02月05日

  • 竹内 慈実

上場バイオベンチャーの株価低迷に加え、米国のサブプライムローン問題を発端とした金融の冷え込みなどの影響により、ベンチャーキャピタルなどからの資金調達が困難となった。このため、資金繰りに行き詰まる未上場のバイオベンチャーが増えている。すでにこの1年間で、少なくとも5社の未上場バイオベンチャーが破産に至ったもようである。

だが、勇気づけられる話題もある。このような厳しい環境におかれながらも、自らが苦境に立たされているベンチャーキャピタルなどからの資金調達に2008年5月以降にも成功しているバイオベンチャーが存在する。具体的には、アルツハイマー病の治療薬の開発を目指すエムズサイエンス、医療用抗体の作製やその大量生産システムの開発を手掛けるイーベック、そして自己免疫疾患及び癌領域の医薬品の研究開発を行うジーンテクノサイエンスなどである。

それではこれら企業の共通点を捜してみよう。(1)自社の置かれている状況を的確に捉えていること、(2)柔軟に経営の軸足を研究開発から事業開発(営業)に移していること、(3)手持ちの技術や医薬候補品の商用権を製薬企業などにライセンス供与していること、の3点が共通項目として注目される。

技術や医薬候補品を早い段階で外部へライセンス供与することは、長い目で見た場合、その企業の潜在的な収益性を低下させる要因となる。しかし、医薬品を販売するまでには、多額の費用と時間がかかる、安全性や有効性を確かめるための臨床試験を経る必要がある。製品の安全性に問題があれば開発中止になるなど、リスクも高い。製薬企業などとのアライアンス提携は、見方を変えれば、その企業が内包するそれらのリスクを低減させるとも捉えることができる。バイオベンチャーの株式上場において製薬企業とのアライアンス提携が重要な要素となっているのは、まさにそのような観点によるものと思われる。また、上記企業の状況を勘案すると、製薬企業などとのアライアンスの有無は、ベンチャーキャピタルなどがバイオベンチャーにさらなる資金投入を検討する際の重要なファクターになっている可能性が高い。

苦労して開発したシーズを安売りしたくないと思う気持ちも当然持ちえようが、まずは会社が存続できなければ意味はない。欧米のバイオベンチャーも日本のバイオベンチャーと同様の境遇にあるため、製薬企業との提携を先んじて勝ち取ることは難しかろうが、今こそ自社の存続をかけて、粘り強いトルクを効かせた努力が肝要であろう。

次代の経済成長の担い手の一端と期待されるバイオベンチャーは岐路に立たされているといえよう。

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