社会主義へと「Change!」するオバマ政権?

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2009年01月27日

  • 成瀬 順也

なぜリーマン・ブラザーズは破綻しなければならなかったのか。なぜデトロイト3(今やビッグ3とは呼べない)の救済が難航しているのか。米国は自己責任が原則の国だからと言ってしまえばおしまいだが、大統領に選ばれたのがヒラリーではなく、マケインでもなく、ましてやジュリアーニでもなかったことと併せて考えると、行き過ぎた資本主義に対する民衆の怒りが透けて見える。

当初はMain Street(産業界)がWall Street(金融界)から主導権を奪い返す過程に見えたが、デトロイト3救済の公聴会におけるプライベートジェット事件とUAW(全米自動車労働組合)の人を食ったような態度が問題を大きくした。トヨタ並みの賃金・福利厚生で十分ではないのか?この期に及んでトヨタ並みさえ拒絶するUAWは、高給取りのCEOや投資銀行マンと同様、民衆の敵となってしまったのである。オバマ大統領の人気が高まれば高まるほど、景気対策は貧困対策へと姿を変え、社会主義的な所得の再分配機能が強まるだろう。行き過ぎた政策の振り子は、思いっきり正反対に振れようとしている。

今年度(2009年9月期)の財政赤字は、何もせずとも史上最大規模に膨らむことが予想されている。金融対策に景気対策を加えると、天文学的な数字に膨らみかねない。緊急事態の今はともかく、いつかは削減しなければならない。大きな政府を志向する民主党政権の答えは増税である。しかも、オバマ政権。答えは金持ち増税である。景気対策というアメは中所得層への減税、低所得層への補助金、失業者への雇用対策などによりバラ撒かれる一方、財政赤字削減というムチは配当・キャピタルゲイン増税、贈与・相続税増税、個人所得税の累進課税急勾配化などにより高所得層に襲い掛かる。

しかし、英国のサッチャー元首相が言ったように「金持ちを貧乏にしても、貧乏が金持ちにはならない」のである。所得の再分配機能の強化は、デレバレッジの動きと相まって、米国の高額品消費を抑制し続ける可能性が高い。景気対策以外で、景気回復に貢献しそうなのは、住宅ローン金利とガソリン価格の低下である。しかし、ローン金利が低下しても、住宅価格が下げ止まらなければ住宅販売が急回復する可能性は低く、借り換えについても、一昔前と違ってホームエクイティ・ローンにつながる訳もない。結局、月々の返済額減少に見合った消費刺激が期待されるだけである。ガソリン価格も同様。自動車販売が急回復する訳もなく、こちらもガソリン代減少分が他の消費支出に回るだけの話である。結局、本格的に回復するのは非耐久財、サービス消費、一部の低額耐久財といった低価格品消費だけかもしれない。

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