富裕層ビジネスの曲がり角
2009年01月15日
金融危機の煽りを受け、世界では富裕層のカネが全く動かなくなっている。金融資産投資や不動産投資はもちろんのこと、自動車や美術品、宝飾品、ブランド品など高額品への出費も大きく縮んでいる。
昔からの真の富裕層にとって何割かの株価下落は大したことではないのかもしれないが、過去数年で台頭した新興国のニューリッチ層は、おそらく大きな痛手を被っているだろう。ストックの資産家のみならず、フローの高額所得者にも厳しい環境が訪れている。世界を闊歩していた高額所得のインベストメント・バンカーは失職の危機感を背負い、原油価格の高騰を背景にしたオイルマネーも原油価格急落で先行きがあやしい。そして日本でも富裕層への影響は小さくない。不動産価格は都心一等地ほど下落率が大きく、銀座のクラブも閑古鳥が鳴いているという。
今後、しばらくすれば景気が回復し、再び富裕層のカネが動き出す、と考えるのは楽観的発想かもしれない。所得やファイナンス環境が回復したとしても、鷹揚な高額消費を忌避する“空気”が世界に漂っているように思われる。これまで“アメリカンドリーム”的な大幅な所得格差を許容してきた米国でさえCEOの高額所得批判が沸き起こっているし、日本では「ワークシェアリング」が社会全体の話題にのぼり、高額所得者に対する風当たりは強まる一方である。
世界の富裕層ビジネスには遠く及ばないかもしれないが、日本では過去10年ほどの間に富裕層をターゲットにしたビジネス展開を図ってきた企業が少なくない。金融、不動産、自動車、家電、百貨店等々、多くの産業で少数の富裕層、得意顧客から大きな割合の利益を獲得する戦略を推し進めてきた。
もちろん、長い目で見れば、世界に所得格差は存在し続け、富裕層ビジネスも消えてなくなることはない。しかし、この先数年以上、ビジネスの拡がりは期待できないだろう。企業はこれまでの発想を変え、いわゆる中間層をターゲットとした戦略に早々に転換するべきではないだろうか。これまでのように、高額品=高付加価値品で“がっぽり”儲けるのではなく、薄い利ざやでも確実に市場を開拓してゆく、というイメージである。これは何も、高品質・高付加価値品で勝負する、という世界における日本の戦略を否定しているのではなく、顧客ターゲットに合わせて“過剰な”付加価値を削ぎ落とすことを意味している。
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