1. トップ
  2. レポート・コラム
  3. コラム
  4. プライベート・エクイティ・ファンドの変容

プライベート・エクイティ・ファンドの変容

2008年04月22日

柏崎 重人

ここ数年「現代はファンド資本主義の時代」などと揶揄され、その象徴とされたプライベート・エクイティ・ファンド(以下PEF)が曲がり角を迎えている。サブプライム問題を端緒とする信用収縮によって、LBO案件のシニアデットのシンジケート先であるCDO/CLOの引き受けが減少、レバレッジド・デットの調達が困難になっていることが発端だ。実際にLBOの融資実行が撤回される事例も増加、金額10億ドル以上の大型案件でみて昨年4月以降足元までで10件のLBOが撤回されている(出所:Capital IQ)。こうした事態の進行に伴い、PEFの先行きに関していくつか注目すべき事柄が議論され始めている。

第一は、ここ数年PEFが積極的に調達してきたデット資金(レバレッジドローン等)が返済されない可能性が高まっていることだ。この点、RMBSやCDOといった住宅ローンを裏づけとした証券と異なり、PEFの資産は投資対象となった買収企業などであり、それが直ちに調達資金返済に行き詰る状況ではないとの楽観的な見方もある。しかし、住宅不況が米国経済の減速へと波及し、買収企業の業績計画に大幅な狂いが生じたり、仮に計画通り運んでも株式市場の不調でIPOが思うように進まないなどイクジット環境の悪化によってPEFの資金繰りに支障が出る可能性は十分にある。グローバルベースで足元のPEF運用残高(AUM)は2兆ドル程度、レバレッジドローン残高は7,000~8,000億ドルと言われており、デフォルト率の大幅上昇は1,000億ドル単位の新たな不良債権を生み出す可能性を意味する。

第二は、これまでのように低コストで大量調達した資金を元手に企業買収を実行し、企業保有の余剰資金の回収や情報ギャップの解消によって企業価値増加を顕在化させるなど、単純なファイナンシャルバイヤー的な手法を駆使するだけのPEFは存在意義が急速に低下していることだ。すなわち、PEFの本来の姿に立ち返り、事業価値のバリューアップが図れるハンズオン投資能力の高いPEFのみが生き残れることを意味する。ここ数年、設立が相次ぎ半ば乱立気味であったPEF業界でも、淘汰の波が押し寄せる可能性が高まっている。

第三は、資金調達が困難になることによるファンド規模の縮小、投資案件の減少などからPEFの投資対象が多様化してくる(あるいは、以前から存在していた戦略分野への投資拡大が加速する)ことだ。例えば、PEFによるBRICsをはじめとする新興市場への投資はここ数年拡大基調を辿ってきたが、急成長する経済において企業のIPO予備軍が豊富なのは論を待たない。株式の過半数を取得するバイアウトでなくとも、マイノリティ出資でも十分に魅力的なリターンを獲得できる案件もあるだろう。また、現状LBOなどで発行されたハイイールド債の価格が急低下してディストレスト債券となっているものが少なくない。リスクフリー金利を10%程度上回るこうした債券への投資は、PEFが高リターンをあげる絶好の機会と映るようだ。実際、このところTPG(60億ドル)、カーライル(13.5億ドル)といった大手PEF運用会社が新たなディストレスト・ファンドを立ち上げるとの報道が目に付くようになってきた。

第四はPEF運用会社とSWF(ソブリン・ウェルス・ファンド)の急接近である。PEF運用会社からすれば世界的な信用収縮を背景に新たな資金調達源としてSWFに注目が集まり、一方でSWFからすれば高リターンの投資戦略としてPEFが魅力的に映るという双方の利害が一致した関係だ。昨年来の大手PEFに関連した事例だけでも、中国のSWFであるCICがブラックストーンに、UAEアブダビ投資庁(ADIA)がカーライルに出資するなどの報道が大きく取り上げられたことは記憶に新しい。また、上述したTPGのディストレス・ファンド立上げでは、シンガポールのGICがリードインベスターに名乗りを上げ、最近ではJCフラワーズ(JC社)に中国CICが80%の出資を行うことが明らかになっている。JC社は経営不振の金融機関への投資で有名なPEF運用会社で、日本を含めグローバルにサブプライム問題等で疲弊した金融機関の買収に本格参入するのではとの憶測も呼んでいる。

グローバル規模で大きく拡大するSWF投資を巡っては、先進諸国において規制論議が高まる兆しが見えるが、同論議の決着にもPEFの存在が微妙な影響を与えよう。すなわち、SWF資金のPEFを経由した投資が拡大する事情を重ね合わせると、SWF自体を直接規制するのに併せて、PEF規制の議論が不可避になる可能性を示している。
  「ポストサブプライム」としてのPFEの動向からは、暫く目が離せない状況が続いていこう。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加