アメリカの失われた1年

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2008年03月03日

  • 原田 泰
アメリカの低所得者向け住宅ローンであるサブプライムローンの不良債権化が発端となって、アメリカも、日本がバブルとその崩壊で経験したような長期の不況に陥り、世界経済もまた長期の停滞を免れないという説がある。しかし、私はそうは考えない。

そう考えない理由は3つある。第1は、規模の違いだ。日本経済が1980年代末からのバブルとその崩壊で作った不良債権の額は100兆円で、日本のGDP500兆円の20%だった。一方、アメリカのサブプライムローン関連の不良債権は3000億ドルで、アメリカのGDP14兆ドルの2%余りであると言われている。もちろん、3000億ドルではすまないという説も強いが、その倍だとまで主張する人はいないだろう。日本は、GDPの20%の不良債権で、その後10年間1%成長に陥った。アメリカの不良債権の規模は、日本の20%の10分の1の2%である。10分の1の規模の不良債権なら、1年間1%成長に陥るだけですむだろう。

さらに楽観的になって良い事情がある。第2に、アメリカの不良債権処理のスピードが早いことだ。昨年にサブプライムローン問題の深刻さが明らかになるや、本年の初めにはかなりの処理をすませた。日本は、不良債権を処理するまでに10年以上かかった。第3に、アメリカの金融緩和の速度が速いことだ。日本では、バブル崩壊後、金融緩和が遅れ、デフレ状況になってしまった。アメリカは大胆な金融緩和を進めており、デフレに陥ることはないだろう。日本はバブル崩壊後、政策金利を3%にするまで3年半かかったが、アメリカはわずか1年余りで3%にまで下げている。

以上3つのことを考えれば、日本の失われた10年とは異なり、アメリカは1年を失うだけですむだろう。1年どころか、半年を失うだけですむかもしれない。

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