米国のリセッションとアジア

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2008年02月27日

  • 牧野 正俊
米国の景気減速が、中国をはじめとするアジア経済へ及ぼす影響を懸念する声が高まりつつある。勿論、世界最大の消費国である米国の存在は無視できないが、その影響をあまりに過大視するべきではないだろう。

実際、アジア各国(NIES、ASEAN4、中国、インドの10カ国・地域)から米国向けの輸出シェアの推移を10年前と比較してみると、中国を除くすべての国で、米国向けのシェアが低下していることがわかる。つまり、米国の景気減速から受ける影響は明らかに低下しているはずである。勿論、エレクトロニクス製品などのように、アジア各国から中国に部品などが輸出されて組み立てられ、最終的に米国で消費される、という場合には米国景気の影響は避けられない。韓国や台湾のエレクトロニクス産業に対するダメージは少なくないだろう。ただし、中国をはじめとするアジア域内の需要は、このかなりの部分を補うことが出来る程度に成長・拡大していると思われる。

例えば、先月の雪害によって浮き彫りにされた中国の輸送網のぜい弱さは、今後も膨大なインフラ投資が必要不可欠であることを如実に物語っている。消費も相変わらず旺盛である。中国国内の1月の自動車販売台数は前年比20%増の86万台と、1ヶ月の販売台数では過去最高を記録した。このペースで行けば、年間1000万台の大台に乗せる公算が高い。楽観的過ぎるのもよくないが、米国の景気減速によるアジアへの影響は比較的限定的である、とみてよいのではないだろうか。

アジアの内需の中心ともいえる中国の当面の問題は、国内の金余りとインフレである。

貿易黒字に加え、直接投資と株式市場を中心とした間接投資の流入により積み上がった外貨が、国内の過剰流動性の源になっており、現状の金利や準備率の水準では解消されそうにない。度重なる金利の引き上げにも関わらず実質金利はマイナスの状態であり、これが資産インフレをもたらしている。

一方で、消費者物価上昇率は、主として食品価格の上昇から、前年比7%を越える水準に達しており、政府は価格管理・介入を打ち出すに至っている。天安門事件を引き合いに出すまでもなく、インフレは国民の不満に火をつけ、結果的に社会不安をもたらす可能性があるため、政府もインフレの高進には非常に神経質になっている。

これらに対する有効な処方箋のひとつが、大幅な人民元切り上げである。人民元の大幅な切り上げは、外貨の流入スピードを減速させかつ、輸入インフレ圧力を低下させるが、その一方で、農業や競争力の低い国有企業に甚大な影響を及ぼす。大幅な為替切り上げは政治的には大きなリスクを伴うのはいうまでもない。

中国がまだ世界に向かって十分に開放されていなかった時代には、改革のための実験的手法や漸進主義はかなり有効に機能した。しかし、グローバル経済に大きく組み込まれている現在、中国内外の環境の激変についていくためには、そのスピードをかなり加速する必要がありそうだ。

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