株式市場低迷とベンチャー企業

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2006年11月16日

  • 中野 充弘
日本経済がようやくデフレ脱却に向けて動き出しているにもかかわらず、株式市場のパフォーマンスは期待ほどではない。例えば、昨年末から11月13日までの主要国の株価騰落率を比較してみると、NYダウ13.2%、ナスダック9.1%、独DAX指数18.2%(円建て換算で28.1%)、香港ハンセン26.8%、インド・ムンバイSENSEX30種42.5%といずれも上昇。ウォン高と北朝鮮問題という懸念材料を抱える隣国の韓国でも1.3%の値上がりである。一方、日本は日経平均▲0.5%、TOPIX▲4.9%、ジャスダック指数▲35.2%、東証マザーズ▲56.9%と全く冴えない

昨年1年間の日本株が大きく上昇したこと(例えば日経平均は昨年40.2%上昇した)の反動や、ライブドア事件等による新興市場の大幅調整の影響もあるだろうが、それにしても今年6月以降の世界株式市場が再びシンクロナイズ化し同時株高の動きを示している中では、このところの日本株の低迷には違和感を強く感じる。おそらく日本の株式市場の出遅れ感は今後修正されていくと思われるが、その一方で低迷理由のひとつかもしれない日本金融市場が抱える課題を再認識する必要もあるのではないか。それは個人金融資産の現預金への偏重である。

これまでに何度となく指摘されてきたが、日本の個人金融資産約1500兆円の半分は現預金となっている。米国の13%や英国の23%、ドイツの34%と比べると明らかに比率が高すぎる。確かに金融不安が高まっていた90年代後半やデフレ圧力の残っていた2000年代前半であれば現預金選好も賢い選択であったかもしれないが、今後物価上昇圧力の高まりが予想されるなかで、依然として超低金利の現預金に放置したままであるという状況は理解し難い。今後議論活発化が予想される証券税制の見直しにおいては、株価対策一巡や金持ち優遇との狭い視野で論ずるのではなく、「現在も存在する個人金融資産の歪み」を是正するための、長期的な視点に立った金融市場の育成に軸足をおくべきだ。国民全体でみれば、少数の株式保有者に対する優遇策は不要というよりは、株式や債券、投資信託等の未経験者がまだかなり多いという現実こそ改善すべき課題であろう。

一部のコンプライアンスやガバナンス体制に不安のある新興企業がマーケットの信頼を失わせたことは残念であったが、国内には次世代を担う有望なベンチャー企業(及びその予備軍)が数多く存在することを見落としてはならない。新興市場の低迷がさらに続き、それらの企業が必要とする資金がマーケットから十分に供給されない事態となれば、新規ビジネスが成功するチャンスは限定され、結果として将来の日本経済に大きなマイナスとなる恐れがある。低金利継続による行き過ぎた円安進行で国内の豊富な金融資産が海外に流出するだけでは、日本の将来展望は描けない点を、官民とももっと認識すべきであろう。

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