日本版預託証券(JDR)の導入~アジア企業誘致の起爆剤となるか~

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2006年10月13日

  • 篠原 春彦
日本政府と東京証券取引所は、アジア企業などが発行し、株式とほぼ同等の機能を持つ円建ての証券である日本版預託証券(JDR)の上場を来年にも認める方針を打ち出した。米国などで一般化している預託証券(DR)の日本版で、これが導入されれば、日本の個人投資家などはアジアの新興企業に円建てで国内株と同じように投資できるようになる。アジア企業を中心とした海外企業が簡易に上場できるようにして日本に呼び込み、市場を活性化させたい考えである。

JDRの導入が打ち出された背景には、東証の国際的な地位低下への強い危機感がある。バブル崩壊以降、外国企業は売買の低迷や割高な上場維持コストを理由に相次ぎ東証から撤退。2006年9月末現在、25社と、ピークであった1991年12月4日時点の127社から激減している状況にある。中国企業のナスダック市場への上場企業数(2006年5月末現在、28社)よりも少ない水準に落ち込んでおり、上場企業に占める外国企業の割合が2割を超すニューヨーク証券取引所に大きく差をつけられている。

世界の取引所は成長著しいアジア企業を巡り、激しい誘致合戦を演じており、これまでは、東証を素通りして欧米で上場するケースが多かったが、最近では東京市場に関心を示すアジア企業が増えているのも事実である。米国ではエンロン事件などをきっかけに米国企業改革法が制定され、監査制度や情報開示などの規制が強化されたほか、東証は新規株式公開(IPO)銘柄に高値が付き、資金調達に有利という見方がでてきたためである。

しかしながら、アジア企業の誘致に力を入れるといっても、上場審査の敷居が低くなるわけではない。そのため、アジア企業の上場は、新華ファイナンス(中国:マザーズ:2004年10月)とPOSCO(韓国:東証1部:2005年11月)の2社に留まっており、日本に上場したい企業と、優良なアジア企業を誘致させたい取引所の思惑が証券会社を含めた審査の段階で一致していないというのが実情のようである。JDRの導入によって日本の投資家にとっては、アジア企業への投資の利便性が広がる一方、政府や当局が現物株の外国での上場を事実上、禁じている韓国や台湾などの企業は日本での資金調達のチャンスが広がる。ただし、これまで外国企業が日本から撤退した根本的な要因を分析・解決したうえで、魅力ある企業の誘致を進めない限り、JDRを導入したとしても市場の活性化は難しいのではないかと思われる。
上場外国会社数の推移

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