マイナー中銀ウォッチャーの呟き
2006年07月24日
BOCの政策金利が何パーセントかご存知だろうか。そもそもBOCは何だと思われるかもしれない。このBOCはBank ofChinaの略称ではないし、Bank of Chinaは中国の商業銀行であるから政策金利を発表しない。ここではBank ofCanada、つまり、カナダの中央銀行を指している。ただ、世間的には、BOCはBank ofChinaの方が通りが良いようで、検索をすると、BOC、Bank ofCanadaでヒットする件数はChinaの半分に過ぎない。世にBOJやFedウォッチャーはごまんといるだろう。Bloombergが実施する事前調査をみると、6/29のFOMCの結果を予想した関係者が127人、7/6のECBが44人だったのに対して、7/11のBOCは24人に過ぎなかった。
マイナーな存在であるBOCは、しばしばインフレ・ターゲットを採用している国として紹介される。実際、カナダがインフレ・ターゲットを導入した91年以降、物価は安定している。しかし、BOJも指摘しているように、BOCは杓子定規に政策運営を行なっているわけではなく、むしろ柔軟に、端的にいえばいい加減である。2001年の世界的な金融緩和局面では歩調を合わせたBOCは、2.00%への最後の利下げから僅か3ヵ月後に引締めに転じた。米国でデフレリスクが議論されていた2003年春にも利上げを継続したが、その3ヶ月後には利下げに転じた。結局、2002年から2004年春にかけて、5回利上げして5回利下げしたことになる。そして、Fedから遅れること約1ヵ月半後、再び引締めに転じた(2回連続)。BOCは、金利変更が経済に完全に影響を及ぼすには18ヶ月から2年かかるという立場だが、実際の政策変更はダッチロールともいえるものだった。約一年間の据置期間を挟んで、BOCは昨年9月に利上げを再開し、5月まで7回連続で政策金利を引き上げてきた。
そんなBOCが7/11の会合で利上げを見送ったのである(従って、現在の金利水準は4.25%)。事前調査では、3~4割の人が利上げ実施を予想し、仮に今回見送っても年末にかけて利上げ継続が多数派であった。金利先高観が強まるきっかけになったのは、5月のCPIが上ブレしたこと等である。公表された声明文では、コアインフレが想定よりも早く2%に上昇し、現状の経済は潜在的な生産能力を上回っていると評価しており、これまでであれば利上げに踏み切ったトーンである。しかし、BOCは、現状の金利水準が中期的な見通しを達成するためには適切であるという判断を示し、休止というより当面の据え置きを示唆した格好だ。想定を上回るカナダドル高によって輸出が伸び悩むと予想されるために、2007~08年の成長率を下方修正した点が大きいかもしれない。加えて、通貨高による物価抑制効果も期待できることから、インフレ抑制の見方に変更はみられない。
この景気・物価見通しについて、BOC自身がアップサイドとダウンサイドのリスクがあると言及している。後者のリスクとしては、米国景気が(あくまでBOCの)想定よりも急激に減速する可能性が挙げられる。輸出の約8割が米国向けであるカナダにとっては当然の懸念だろう。ところが、BOCは米国景気を元々過大に見積もる傾向がある。今回にしても、2007年の米国の成長率を、市場コンセンサス(2.8%)を上回る3.2%と想定している。既に潜在的な下方修正材料を抱えているようなものだが、世界的な不均衡(米国の対外赤字等)が無秩序に解消されれば、為替調整を通じてカナダには一段とマイナスになるとも言及している。日本に居る者よりも身近で米国の息遣いをきいているBOCが懸念しているのだから、尊重すべきかもしれない。BOCには、ぜひバーナンキFRB議長にアドバイスして欲しい、“あわてない、あわてない。一休み、一休み”と。
マイナーな存在であるBOCは、しばしばインフレ・ターゲットを採用している国として紹介される。実際、カナダがインフレ・ターゲットを導入した91年以降、物価は安定している。しかし、BOJも指摘しているように、BOCは杓子定規に政策運営を行なっているわけではなく、むしろ柔軟に、端的にいえばいい加減である。2001年の世界的な金融緩和局面では歩調を合わせたBOCは、2.00%への最後の利下げから僅か3ヵ月後に引締めに転じた。米国でデフレリスクが議論されていた2003年春にも利上げを継続したが、その3ヶ月後には利下げに転じた。結局、2002年から2004年春にかけて、5回利上げして5回利下げしたことになる。そして、Fedから遅れること約1ヵ月半後、再び引締めに転じた(2回連続)。BOCは、金利変更が経済に完全に影響を及ぼすには18ヶ月から2年かかるという立場だが、実際の政策変更はダッチロールともいえるものだった。約一年間の据置期間を挟んで、BOCは昨年9月に利上げを再開し、5月まで7回連続で政策金利を引き上げてきた。
そんなBOCが7/11の会合で利上げを見送ったのである(従って、現在の金利水準は4.25%)。事前調査では、3~4割の人が利上げ実施を予想し、仮に今回見送っても年末にかけて利上げ継続が多数派であった。金利先高観が強まるきっかけになったのは、5月のCPIが上ブレしたこと等である。公表された声明文では、コアインフレが想定よりも早く2%に上昇し、現状の経済は潜在的な生産能力を上回っていると評価しており、これまでであれば利上げに踏み切ったトーンである。しかし、BOCは、現状の金利水準が中期的な見通しを達成するためには適切であるという判断を示し、休止というより当面の据え置きを示唆した格好だ。想定を上回るカナダドル高によって輸出が伸び悩むと予想されるために、2007~08年の成長率を下方修正した点が大きいかもしれない。加えて、通貨高による物価抑制効果も期待できることから、インフレ抑制の見方に変更はみられない。
この景気・物価見通しについて、BOC自身がアップサイドとダウンサイドのリスクがあると言及している。後者のリスクとしては、米国景気が(あくまでBOCの)想定よりも急激に減速する可能性が挙げられる。輸出の約8割が米国向けであるカナダにとっては当然の懸念だろう。ところが、BOCは米国景気を元々過大に見積もる傾向がある。今回にしても、2007年の米国の成長率を、市場コンセンサス(2.8%)を上回る3.2%と想定している。既に潜在的な下方修正材料を抱えているようなものだが、世界的な不均衡(米国の対外赤字等)が無秩序に解消されれば、為替調整を通じてカナダには一段とマイナスになるとも言及している。日本に居る者よりも身近で米国の息遣いをきいているBOCが懸念しているのだから、尊重すべきかもしれない。BOCには、ぜひバーナンキFRB議長にアドバイスして欲しい、“あわてない、あわてない。一休み、一休み”と。
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- 執筆者紹介
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政策調査部
政策調査部長 近藤 智也
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