ペット供養課税論争の背景

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2006年04月28日

  • 内藤 武史
去 る3月7日、宗教法人慈妙院(愛知県春日井市)が小牧税務署長に課税処分の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決があり、名古屋高裁は「ペットの葬儀、遺骨の 処理などの行為は収益事業に該当する」として、課税処分を適法とした1審・名古屋地裁判決を支持し、慈妙院側の訴えを棄却した。慈妙院は名古屋高裁の判決 を不服として、3月28日、最高裁へ上告の申し立てを行った。

1980年代後半から90年代初めの第1次ペットブームを経て、90年代後半から現在に至る第2次ペットブームの中で、調査機関により差異はあるものの、 ペット関連市場の規模は概ね1兆3000億円から1兆5000億円程度と試算されており、年率4~5%成長を続けているといわれている。このうち、ペット 供養関連の市場規模は現在は数%程度と推定される

1983年から2003年の20年間で犬の登録頭数と14歳以下の人口との関係をみると、明確な負の相関関係がみられる。すなわち、少子化が進展するにつ れ、ペットの飼育数が増加しているということである。国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」の中位推計によると、14歳以下の人口は2004年 の1,773万人から2050年には1,084万人に減少すると予測されていることから、今後もペットの飼育数は増加傾向を辿るものと予測される。

一方、内閣府の調査によると、ペットを飼っている人の割合(ペットの飼育率)は近年はやや横ばい傾向がみられる。このことから、ペット関連市場の拡大は単 にペットの飼育数の増加という量的要因だけでなく、ペット1匹あたりの飼育費の増加といった質的要因も加味されていることが考えられる。さらに、飼育費の 増加は従来のえさ代や美容代といった費用の増加だけでなく、供養のための費用といった新たな追加的費用の発生も寄与しているとみられる。もはやペットは単 なる飼い犬・飼い猫ではなく、家族の一員として扱われる傾向が強まってきているとすれば、こうしたペットの地位向上により、彼等をゆりかごから墓場までケ アしようとする人々が増えるのは当然だろう。したがって、ペット供養関連の市場の拡大もまた必然なのである。

このようにみてくると、冒頭で述べたペット供養課税に関する論争は、拡大する市場を背景とした寺社と課税当局とのせめぎ合いが活発化してきたということが できよう。

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