役割増す「概念フレームワーク」
2004年12月14日
近年、国際的に会計基準の共通化に向けた動きが活発になっている。国際会計基準を設定するIASB(国際会計基準審議会)と米国の会計基準を設定するFASB(米国財務会計基準審議会)が進める会計基準の収斂(convergence)がその典型だが、こうした会計基準の共通化の作業を進める上では、概念フレームワークは特に重要性を増す。同一の取引について複数の会計処理方法があるときに、どちらの会計処理方法に合わせるかを考える場合には、会計処理方法を決めるにあたっての考え方の基本が必要となるためである。
例えば、企業の業績報告のあり方に関しては、「当期純利益」が投資を行う際の指標として一般的となっているが、IASBでは企業の業績指標として「包括利益(comprehensive income)」と呼ばれる当期純利益よりも広い概念(貸借対照表の純資産の変動分を利益と捉える概念)に統一し、当期純利益の開示は廃止する案を検討している。わが国や米国では、当期純利益が投資指標として浸透していることや包括利益の有用性が必ずしも当期純利益のそれを上回るとは言えないことから、包括利益への一本化には反対を表明している。
こうした異なる会計処理方法を共通化するにあたっては、どちらの方法が優れているか優劣をつけることが難しい場合も多く、その基礎となる考え方に立ち返っての検討が必要となる。業績報告のあり方に関して言えば、企業活動によりもたらされる「利益」とは何か、という点に立ち返って考えなければ解決の道は見出しにくい。
わが国の会計基準設定主体であるASBJ(企業会計基準委員会)は、10月、IASBと会計基準の差異を最小限なものとすることを最終目標に、共同プロジェクトを進めることで合意した(具体的な検討は2005年1月からの予定)。こうした作業を進めていく上では「概念フレームワーク」に焦点があたる機会も増えてくることと思われるが、わが国の概念フレームワークは公表されて間もないため、現時点では“討議資料”という位置付けとされている。今後の会計基準設定の過程で「概念フレームワーク」の有用性がテストされ、最終的には“討議資料”という前置きがとれる予定とされているが、国際的な会計基準共通化の検討にあたり、その整備が急がれるところである。
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齋藤 純
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