普遍妥当性を求められる企業年金

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2004年11月11日

  • 大藤 康博
今年度上半期の運用実績は、原油高などによる景気先行き懸念が台頭し、16%を超えるかつてない高い利回りを記録した昨年とは一転、0%近辺に低迷している。下期に入っても円高や軟調な株式市場により、一層厳しい状況になっている。こうした中、企業年金(以下基金と呼ぶ)関係者は運用利回りの改善に腐心する一方、確定給付企業年金法(平成14年4月施行)に明文化された受託者責任問題、幅広く言えば年金ガバナンスへの対応を迫られている。

受託者責任とは一般的に年金の加入員や受給者に対する善管注意義務、忠実義務を果たすことと解される(年金ガバナンスは株主も含めた様々なステークホルダーが対象となるものと考えられる)。我が国の受託者責任問題は、90年代の後半に掛けて年金運用の規制緩和の進展があったことに加え、97年に厚生省からの通知された受託者責任ガイドラインにより、近年急速に基金関係者に浸透してきた。

先の確定給付企業年金法制定により、従来は厚生年金基金関係者が対象であったが、今後は全ての企業年金関係者が該当することとなる。このため適格年金では規約型もしくは基金型へ移行すると同時に社内に年金委員会などを設置し(新制度移行前に設置している場合もあるが)、制度・運用面の方向性について協議を行なうなど、受託者責任問題に取り組んでいる。こうした面を勘案すれば、各基金とも受託者責任を全うする、換言すればガバナンスを完遂する方向に向かっているものと思われる。しかしながら現実には多くの基金で、意思決定プロセスの点で問題を抱えている。

基金では年金委員会を設置し、様々な問題について議論を重ねているものの、運用面に関して言えば、実際には一部の先駆的な基金関係者や運用機関(幹事会社も含めて)、或いはコンサルタントが主導し、参加メンバーの納得・理解が得られない中で意思決定が行なわれているケースも見受けられる。運用面の専門的かつ普段耳にしない用語だけが行き交っている傾向があり、とりわけヘッジファンドなどオルタナティブ資産への投資は、委員会メンバー全員が十分そのリスクを理解しているとは言い難い。そのため悪く言えば一部のメンバーの主張に対し、しっかりとした議論ができず、結果的に了承しているのが実態であろう。

本来、年金ガバナンスとは、年金の問題を基金関係者のみならず、母体企業に周知徹底させることである。このために基金関係者は平易な説明、専門用語の丁寧な解説を行うなど、まずは委員会参加メンバーや経営層の理解を深めるよう、年金業務の普遍妥当性に一層努力すべきものと考える。なお当然のことながら、運用機関や我々コンサルタントにもこうした姿勢が求められることは言うまでも無い。かつてはともすれば閉鎖的なメンバーで対応されてきた年金問題であるが、社会的な問題となっている今日において、普遍化妥当性に懸命に努力する基金関係者の行動は、時宜にかなったものと確信する。

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