米国産牛肉輸入再開に関する日米の見解の相違について

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2004年02月17日

  • 鈴木 誠
日本における大手牛丼チェーンの看板商品である牛丼が店頭から次々と姿を消している報道に接し、日本市場における米国産牛肉のウエイトがいかに大きかったかを感じずにはいられない。

しかし、牛丼愛好者が注目する米国産牛肉の輸入再開にはまだ道のりは遠いようだ。先日行なわれた亀井農林水産大臣とゼーリック米国通商代表との会談を見ても、農水大臣が食の安全を確保する上で全頭検査が不可欠と主張する一方、通商代表は科学的な根拠に基づいて輸入の再開を働きかけると述べ、双方の主張は平行線を辿っている。かねてからわが国があくまで全頭検査を求めてきたにも係わらず、米国農務省がBSE発症牛とともにカナダから米国に輸入された80頭の追跡調査を途中で打ち切ってしまったことに対する不信感も少なくもない。

本件における日米間の隔たりは、「安全性」に関する認識の相違にあるといえる。日本側は全頭検査により感染が確認されていないこと、すなわちシロであることを求めているのに対して、米国側は科学的な根拠による安全性を主張している。米国の主張とは、BSE感染牛を発見する蓋然性や牛肉を摂食した後にvCJD(変異型クロイツフェルト・ヤコブ病)に至る蓋然性に加えて、調査に関連するコストや便益等を包含したものと考えられるが、科学的な根拠とは極めてあいまいな表現で判りにくい。「バカの壁」(養老孟司著)に「科学的推論を真理だと決め付けてしまうのは怖い。科学的事実と科学的推論とは別なものです。」と述べられているように、科学的な主張は、いかにももっともな客観的事実を示していると安易に受け入れられてしまう危うさを持っているからである。

こうして考えるならば、米国産牛肉輸入再開問題のポイントは、日米政府が許容できる蓋然性の水準の相違にあるといえそうである。ただし、食文化や畜産業の形態や規模などにおいて異なる日米両国がどこまで理解しあうことができるか、わが国の牛丼愛好者は文字通り固唾を飲んで見守っているに違いない。

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