「寄らば大樹」は永遠か
2003年12月24日
この結果は,各企業の血の滲む努力の結果であろう。しかしながら,こうも短期間に業種を問わず企業の損益が改善するものか。大都市に比べ,地方の景気回復の遅れが指摘されている。大企業の多くが都市部に集中していることを考えると,中小企業の損益は相変わらず厳しいと予想される。この構図は,以前,情報化が進んだ場合を想定して描かれていた青写真とは異なる。
今後は企業規模など関係なく,発想力/創造力が勝負であり,これをビジネスに生かせる企業こそ21世紀を勝ち抜けるとの声があがった。情報化とは,個人の発想を活かし,新しいビジネスモデルを生むツールを取得することであり,そして業務プロセスその他の面において,情報化はまさに革命的な変化をもたらすと表現された。しかし,損益の観点から現状を見る限り,企業規模と競争力は正の相関を持ち,それは情報化革命をもってしてもひっくり返すことはできていない。情報化が革命だと言われて,いまひとつこれを実感できないのは,次々と新興企業が産業の勢力地図を大きく塗り変えたり,あるいはこれまでにない新しいビジネスが自由闊達に生まれたりしていないことが一因であるように思う。
情報システムは導入してすぐに効果が上がるものではない。自らの切り口で情報を分析してこそ新たな価値が生まれる。我が国において,情報システム導入の効果が,企業のアウトプットに関わる財務指標に明確に影響を及ぼしていることは,マクロの視点で見る限り確認できていない。これは,企業規模を問わず情報システムを使いこなせる人材が不足していることと無縁ではあるまい。その結果,今年度上半期は,体力的に勝る大企業がコスト削減を主因に業績を回復させたと解釈できる。
大企業の業績回復は決して悪いことではない。しかし,懸念すべきは冒頭に述べた結果を受け,21世紀を背負う人材が安定を求め,大企業に集中することである。ただでさえ,高失業率が続く現状は,安定を求める人材を生み出しやすい環境にあるといえる。安定を求めるという「寄らば大樹」的発想の人材には,どうしても危機感が生まれにくい。年功序列を廃し,成果主義型の賃金に改める企業は散見されるものの,根本にある意識の改革にまでつなげることは容易ではない。「中小企業の業績低迷⇒大企業への人材集中⇒危機感に乏しい人材の増幅」というスパイラルは避けなければならない。これを断ち切るには,情報化を企業価値につなげられる人材の育成が急務である。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2021年01月26日
銀行等の業務範囲・5%ルールなどの見直し
銀行制度等WG報告
-
2021年01月25日
2021年のASEAN5経済見通し
景気回復は年後半に加速。懸念が多いタイとフィリピン。
-
2021年01月25日
税金読本(16-2)税務署への財産債務の申告と国外転出時みなし譲渡益課税
-
2021年01月22日
金融商品の評価
金融商品の価値はどのように算定するのか?
-
2021年01月26日
コロナ禍における地球環境問題
~ CO₂削減に向けたムーブメント ~
よく読まれているコラム
-
2020年10月19日
コロナの影響、企業はいつまで続くとみているのか
-
2015年03月02日
宝くじは「連番」と「バラ」どっちがお得?
考えれば考えるほど買いたくなる不思議
-
2020年10月29日
コロナ禍で関心が高まるベーシックインカム、導入の是非と可否
-
2006年12月14日
『さおだけ屋は、なぜ潰れないのか』で解決するものは?
-
2017年07月25日
ほとんどの年金生活者は配当・分配金の税率を5%にできる
所得税は総合課税・住民税は申告不要という課税方式