中小企業と団塊の世代

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2003年12月02日

  • 渡辺 浩志

2006年度から団塊の世代の退職が始まる。もはやこれは遠い将来の話ではなく、昨今注目を集めるトピックとなった。過剰雇用の解消や人件費の大幅削減が企業の収益力強化へと繋がるという考えに基き、主に大企業が分析の対象となってきた。なるほど、株価との絡みでは大企業の分析こそが重要であるが、日本経済全体へのインパクトとなると中小企業の分析の重要性がいや増してくる。

大企業と中小企業のリストラの違い
大企業と中小企業の人件費(人員数×一人当たり賃金)の動きについて団塊の世代に注目して見てみる。97年から2002年の間に人件費総額は大企業で11.4%、中小企業で12.5%削減されたが、大企業ではこの5年間に団塊の世代を中心に人員数および賃金水準の両面からのリストラが行われてきた。一方、中小企業では大企業のようなターゲットを絞った人件費削減が行われてこなかった。この結果、現在では中小企業の団塊の世代の人件費が総人件費に占める割合は大企業と同じ水準となり、団塊の世代の人件費に与えるインパクトは大企業並にあることを意味するようになった。

リストラが団塊の世代に集中しない理由
なぜ大企業では団塊の世代に集中的に人件費削減の矛先が向けられ、中小企業には向かなかったのか?その一つの理由は賃金と労働生産性の乖離にあると考えられる。中小企業に比べ大企業の賃金カーブの傾きは急であり、年功序列的色彩が強い。年功序列の賃金体系は若年期に支払われる賃金が労働生産性を下回る一方で、壮年期にはそれを上回る賃金が支払われるといういわば賃金後払い的な性格を持ち、終身雇用または長期雇用によって担保される制度である。そこで、労働者の勤続年数を見ると、大企業の団塊の世代では平均26.4年であるのに対して、中小企業では17.3年と10年近く短い。つまり、中小企業は長期雇用でない以上、大企業に比べ賃金の後払いは成立しにくく、比較的労働生産性に見合った賃金が支払われていると考えられる。このため、中小企業においても団塊世代に人件費の山があるとはいえ、生産性もそこに山があるため、あえて団塊世代をターゲットに人件費削減をする合理性は乏しかったといえる。

中小企業の方が団塊の世代のインパクトが大きい?
このように考えると大企業では団塊の世代が退職を迎え始める2006年度を待たずして、既に行われてきたようなこの世代を中心としたリストラが今後も継続される可能性が高いが、中小企業ではそのような状況は考えにくいということになる。したがって大企業のような前倒しの調整がなければ、2006年度以降、団塊の世代が一斉に退職を迎えたときに人件費に与える変化は中小企業で特に大きいものになると考えられる。

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