ヒャクネンサイって知ってる?

RSS

2017年07月27日

  • 秋屋 知則

先日、「アルゼンチンのヒャクネンサイって知ってる?」と聞かれた。とっさに100年債ではなく、100周年/アニバーサリーの祭(まつり)を思い浮かべた。

言い訳をすれば、筆者もソブリン債を知らないわけではない。いや、2001年前後、同国がデフォルトして大騒ぎになった記憶も忘れてはいない。大雑把に言えば、利払いができなくなった額面100の元本を75%カットした新債券に交換する厳しい条件の債務再編だった。だから、わずか15年ばかりで再び国際的に債券が発行できるまで回復しているとは簡単に想像できなかったのだ。しかも、満期は100年後というウルトラ・ロング債。

調べてみると、クーポンは7%強。投資家の視点に立てば、このクーポンがきちんと支払われれば、100年と言わず、10数年で元本分は確保できる。とはいえ、サッカーのワールドカップ優勝回数かと思うような南米諸国の過去のデフォルト実績からリスクを考えると“寿命より長い債券を買いますか?”といったメディアの見出しも理解できる。

昨今の運用難から、年金や保険の運用者は、長くリターンが計算できる債券の購入意向は強いようだが当然、発行体の信用が重要だ。100-Year Bondだけでなく、century bondという呼び方も見つけた。好条件は魅力的でも1世紀後に国や世の中がどうなっているか、考えさせられる名前だ。

60年代、クズネッツという経済学者は、「国家には4つの種類がある。先進国、発展途上国、日本、そしてアルゼンチンである」と言っていたそうだ。

欧米先進国では、中央銀行の政策によって今後、金利上昇を見通す意見が多い。経済成長率から見て、昔のような高金利ではないとしても、金融緩和の出口を模索する動きだ。一部の国を除いて、公的支出や高齢化の進展によって財政状況は悪化している。政府としては、(借金が不可避ならば)現在の低金利を固定して、長めの債券を出したいと思うだろう。願わくは、相当に長い期間で。事実、減税と巨額のインフラ投資を実行したいトランプ政権ではムニューシン財務長官が“理にかなっている”と50年以上の超長期国債発行についての検討に言及している。

アルゼンチンは、日本と対照的に、かつて先進国だったが、落ちぶれて、財政破たんに陥り、ジャンク扱いまで格下げを余儀なくされた。

それでは、敗戦国からGDP規模で先進国のトップグループ入りしたことで特筆された日本はどうか。40年を超えて「100年債」を出すとしたらと頭の体操をしてみる。

まず、格付けと歴史的な金利水準からクーポンの低さがネックになることが考えられる(超長期ではインフレ率の想定も難しい)。一方で、100年後までに財政再建で借金(国債発行)のない国にしたいのはやまやまだが、正直、期待薄だ。政府にカネがないだけというのも事実ではあるが、果たして消費税率はどうなっているだろうか?

百年論定まるというが、様々な経済社会の課題が解決できずに、100年後が信じられない国だと、投資家に敬遠されたりはしないだろうかと思うとお祭りどころではない。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。