世界で増加する永久債の発行

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2015年05月12日

永久債という債券をご存じだろうか。永久債とは、償還期限の定めがない債券のことをいう。一般的な特徴として、永久に利子が支払われること、投資家は償還を要求できないが、発行体は一定期間後の償還オプションを有していることが挙げられる。

近年、この永久債の発行が急増している。2014年の発行額は前年比2.5倍、過去最高の2,278億ドルとなった(※1)。主な要因は、①金融機関に対する国際資本規制(バーゼルⅢ)に対応するためのCoCo債(Contingent Convertible Bonds)の発行増、②世界的な低金利を受けた発行増である。

2014年の発行額が1,085億ドルに達したCoCo債とは、金融機関の自己資本比率が一定水準を下回った場合などに、元本の削減または普通株式への転換が求められる債券である(※2)。リーマン・ショック時には大手銀行が公的資金(税金)の注入により救済され、銀行の債権者が損失を免れたという問題があったが、いざという時には銀行の債権者も負担を負う仕組みであるCoCo債は、バーゼルⅢにおいて銀行の自己資本への算入が認められている。

リーマン・ショックがあった2008年以前、永久債の発行は英国など先進国が中心だったが、近年は新興国での発行も目立っている(※3)。なかでも、中国の2009年以降の累計発行額は878億ドルと世界で最も大きい(※4)。このうちCoCo債は498億ドルで、CoCo債以外は金属・鉱業、工業・その他(鉄道会社等)といった業種による発行である。

世界で発行が増加する中、他方では英国の永久国債が償還を迎えつつある。英国の永久国債は2014年時点で8銘柄、合計35.7億ポンド(国債残高に占める割合は0.25%)に整理・統合されていた。英国政府は利払い費の軽減を目的として、2014年10月から2015年3月にかけて償還予定を発表し、2015年7月には全ての永久国債が償還される見込みである。驚くべきことにこの中には第一次世界大戦の戦費の借入が含まれ、さらには18世紀の南海バブルの時に作られた債務なども含まれるという。

翻って日本はどうか。2009年以降の永久債の累計発行額は銀行等による179億ドルにとどまっている。政府債務を多様化する観点から永久国債の可能性を考えてみたが、難しそうだ。超低金利の下で永久国債を発行できれば、政府としては将来にわたる利払い負担を小さくできるかもしれないが、政府がデフレからの脱却を目指している中では投資家の需要が期待できないだろう。インフレ率が上昇すれば実質ベースでみた債券の元本や利子の価値が低下してしまうためである。

加えて、上述の通り永久債の償還は発行者側に委ねられるのが通常の商品設計である。膨大な債務を抱える日本政府がデフレ脱却を目指すと言いながら永久国債を発行すれば、財政再建に取り組む姿勢の後退と市場に受け取られる可能性もある。グローバルには拡大著しい永久債市場だが、日本国債についてはあてはまりそうもない。

(※1)本コラムにおけるデータの出所は全てBloomberg。
(※2)本コラムでCoCo債の発行額は永久債のみを集計している。バーゼルⅢで自己資本に算入できるCoCo債には償還期限のある債券もある。
(※3)ここでの発行額の比較は、国債と当該国を最終親会社の法人登録国とする企業の社債の合計額について行った。
(※4)2009年以降の累計発行額が中国に次いで多いのは、フランス856億ドル、英国568億ドルである。なお、2008年以前の累計発行額は英国が最も多かった。

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神尾 篤史
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 神尾 篤史