ゆうちょ集中満期の途中経過と今後

RSS

2011年06月27日

  • 土屋 貴裕
2010~11年度は、ゆうちょ銀行の定額貯金集中満期と個人向け国債の(固定5年)の満期が始まったことで、家計にとっては資産選択の機会が訪れていると言えよう。

2010年度のゆうちょ銀行の預金残高を確認すると、定期性預金が減少し(3.9兆円減)、流動性預金が増加(2.7兆円増)した。全体では前年度比0.7%減と微減に留まり、再預入を含めて定額貯金の満期金がゆうちょ銀行外に流出した様子は限定的である。満期を迎えた定額貯金は、再預入されている可能性と共に、流動性預金に滞留し、行き先が定まっていない資金もそれなりに存在していると見られる。超低金利下で10年間動きがなかった資金がいきなり動き出すわけではない、ということだろうか。

ゆうちょ銀行以外の国内銀行においても、個人の要求払い預金が増えており、2011年4月は、4月の残高増加幅としては、ペイオフ部分解禁によって、定期預金等から普通預金等へ資金がシフトした02年以来の増加幅となった。東日本大震災を受けて、手元流動性の確保や、消費の手控え等によって普通預金等に資金が積み上がっていると考えられるだろう。投資機会を計るために待機しているのであれば、定額貯金や個人向け国債が相次いで満期を迎えていくとしても、資金の流れが動意付くまでに時間を要する可能性がある。

ここ1年ほどの家計の資産選択は、公社債を売り越し、定期預金等の残高は減らしてきた。国内の確定利付き商品からの資金流出は日銀の追加緩和等のタイミングに近い。逆に、資金は投信に向かい、2010年度においては高金利の外国債券等が人気化したと見られる。金融政策の「時間軸」の長期化に伴い中長期金利が低下したことで、家計は定期預金や公社債の保有残高を減らし、リスクを取って相対的に高いインカムゲインを求めたと考えられる。

もう一つ、家計のデフレ予想は後退し始めている可能性が指摘できる。2008年の物価上昇局面では、実質金利はマイナスになったが、家計は公社債を買い越し、定期預金の残高を積み上げた。名目金利に一致した動きであり、今後も物価が大幅かつ長期にわたって上昇しないのであれば、名目金利の変化に応じた資産選択が予想される。もっとも、物価の基調が強くないとしても、例えばガソリン等、一部の商品の値上がりでも物価の予想は変わり得る。消費税率の引き上げが議論の俎上に載り、地政学リスク等で国際商品市況が上昇する可能性や、中国における生産コスト上昇等が輸入価格に反映される可能性等を踏まえれば、実際のインフレ率以上にインフレ予想が高まることも想定されるだろう。一層の物価上昇が視野に入ってくる場合には、資産選択の視点が実質リターンにシフトすることや、駆け込み消費の可能性が出てくるだろう。

今後は、個人向け国債(変動10年)の適用金利の決定方式が変わり、適用金利が引き上げられることになった。円の金利水準がどの程度高まれば、家計が国債購入を増やすのだろうか。それは、ゆうちょ銀行が国債保有を減らし続けているが、保有者分散が求められている国債管理政策の一環として、家計の国債保有増加につながるかの試金石と言えよう。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。