土地勘を養おう
2024年11月18日
知らない街を歩く時のドキドキ感は、誰しも経験があることだろう。自分がどこにいて、どこに向かっているのか不確かなままで歩くのは、旅行先で街歩きをしている時であれば、それはそれで楽しめるものである。けれども、たとえば仕事上の約束があって、所定の時刻に所定の場所までたどりつかねばならない時には、大いに焦ることになる。
昨今はスマートフォンが現在地を教えてくれて、目的地までの最短ルートを示してくれるが、それでも自分が正しい方向に踏み出しているのか自信を持てないことがある。逆に、自分がある程度知っている場所であれば、通ったことがない道であったとしても、方向が合っていれば大丈夫と思える。これは、いわゆる「土地勘」があるためである。
「土地勘」が重要となるのは、街歩きや車の運転といった物理的な移動の場合に限定されない。文章を書く仕事をする上でも、「土地勘」があるかないかは大きな違いをもたらす。「土地勘」がない分野について書こうと思うと、まずは事実関係を調べ、課題は何かを確認し、自身が主張したいことが的外れとならないかを検証するなど、細かく調べて確認する必要がある。「土地勘」のある分野であっても、事実関係の誤認がないかなどの確認はやはり必要だが、その手間はかなり軽減される。
そのような「土地勘」はどうやったら身に付けることができるのか。自身の経験を振り返ってみると、その方法は、継続的に関心を持って情報収集を積み重ねていくことだったといえる。欧州に関する調査の仕事を長くしてきたが、その土地に実際に行くという経験もさることながら、関連する文献やニュースなどをたくさん読んだり、話を聞いたりして、過去のできごとから目前の変化までを学び、考えることを通じて、「土地勘」を養ってきた。
このような「土地勘」とは、「自信」と言い換えてもよいかもしれない。「土地勘」がある分野だと、書かれた文章を読んだ時に、それはおかしいのではないかという勘も働きやすい。生成AIの登場により、なめらかで読みやすい文章が増えていると推察されるが、その内容が「もっともらしい嘘」であることを警戒する必要性もまた高まっている。より重要なこととして、「土地勘」がある分野を持つと、それが自身の足場となって、そこからさらに関心分野を広げていくことにも役立つと考えられる。というわけで、意識的に「土地勘」を養うことを強くお勧めしたい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。