日本に似ているドイツ家計の株式投資に変化の兆し

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2023年11月06日

家計の金融資産が現金・預金に大きく偏り、株式や投資信託の割合が諸外国に比べて低い。すなわち、老後に備えた資産形成に株式市場を十分に活用できていない。結果として、株式市場に流入する資金が潤沢でなく、企業の資金調達のハードルを上げる一因になっている。以上は日本についての言及に聞こえるかもしれないが、全てドイツの現状についてドイツ株式研究所(DAI)(※1)が指摘していることである。

DAIは今年創設70周年を迎えた民間の研究所で、ドイツにおける株式投資文化の普及を目的にセミナーなどを主催し、また、必要な法整備の勧告などの情報発信も行っている。その長年の努力にもかかわらず、ドイツでは家計による株式投資はあまり普及していない。

実のところ1990年代後半には、ドイツテレコムの民営化と株式公開をきっかけに、ドイツで家計の株式投資に対する関心が大いに盛り上がった時期があった。新興企業のIPOのための市場が創設され、折からのドット・コム・バブルがドイツにも波及し、多くの若い企業が上場を果たした。しかしながら、企業としての実態の怪しい企業までこぞってIPOをしたこともあってバブルは短命に終わり、株式投資は根付かなかった。

ただし、ここ数年に限ると久々に変化の兆しが見られる。欧州中央銀行(ECB)のデータ(※2)によれば、ドイツの家計金融資産に占める株式と投資信託の割合は2010年代後半のおおむね20%から2023年4‐6月期は25%に上昇した。株価上昇の影響もあるが、DAIが公表しているドイツで株式・株式投信を保有している個人数も2022年は約1,290万人となり、2019年の約970万人から明確に増加して、2001年以来の高水準となった。

DAIによると株式・株式投信への投資が特に増えたのが30歳未満で、2022年は前年から約60万人増加した(※3)。その動機は、長期的な資産形成のためが77%と最も高く、次いで低金利で預金金利収入が期待できないためが63%、個人年金としてが56%、インフレ対策としてが44%などとなっている。低金利環境がしばらく続いたあと、一転してインフレ高進に直面する中で、長期的な資産形成手段として株式や株式投信への関心が高まったことがうかがえる。また、ネオブローカーなど新しく、より安価な投資手段が増えていること、SNSなどで株式投資に関する情報を入手しやすくなっていることなども、若い世代の株式・株式投信への投資を後押ししている。DAIはこの機を捉えて家計の株式投資をさらに促すべく、税制優遇措置の導入を政府に訴えている。

ドイツとかなりよく似た状況にある日本だが、実は株式投資を促す税制優遇措置については一歩先んじている。その一つであるNISA(少額投資非課税制度)は2024年から投資枠の拡大と制度の恒久化が実現する。日本銀行の資料(※4)によると、2023年3月末の日本の家計金融資産に占める株式や投資信託は15%とドイツ(25%)よりも低い。税制優遇措置が強化される中で、加えて日本でも「インフレ」が当たり前になりつつある中で、特に若い世代に株式や投資信託への長期投資による資産形成の意義を十分に周知させることが重要と考える。

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山崎 加津子
執筆者紹介

金融調査部

金融調査部長 山崎 加津子