植物肉市場に将来はあるのか?

RSS

2023年07月19日

  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 五十嵐 陽一

近年、代替肉/植物肉市場が注目されている。代替肉とは、動物肉を代替する原料を使い、動物肉の食感、形、味を似せたたんぱく質源である。世界的な人口増加に伴う将来的なたんぱく質需要の高まりや、動物肉の製造過程における環境や動物福祉に対する影響への懸念を背景として、開発が進められている。代替肉は主に植物肉、培養肉、微生物発酵肉に分類される。代替肉市場の中でも、現時点で大半を占めるのが植物肉と言われ、世界における植物肉市場の市場規模は2017年に28億ドルであったものが2022年には61億ドルと、5年間で約2.2倍となったと推計されている(※1)。日本においても大手食品メーカーや大手小売店を中心に植物肉市場に参入する企業が相次いでおり、スーパーやコンビニでも植物肉を目にする機会が多くなってきている。

しかし、直近の世界における市場トレンドを見ると勢いが鈍化している。米国における2022年の植物肉市場は14億ドルであり、前年比1%の減少(※1)であった。また、世界的な植物肉プレーヤーとして有名な米Beyond MeatやImpossible Foodsの売上減少や従業員のリストラなども報じられている。

鈍化の背景として主な要因の1つは、世界的なインフレにあると考えられる。食品価格の全体的な上昇に直面し、消費者が節約を意識する中で、動物性食品と比べて高価格な植物肉への支出を控える行動に繋がっている可能性がある。また、2つ目の背景として、植物肉の味が消費者の求める水準に達しておらず、持続的な成長を阻んでいる可能性がある。2022年のアンケートにおいて、植物肉の購入に至らない理由として、51%の消費者が「味」を挙げている(※2)。

それでは、植物肉市場は今後、衰退していってしまうのだろうか。筆者は以下の点で、今後世界の植物肉市場は成長が期待できる市場であると考えている。1つ目は植物肉市場におけるイノベーション進行により、味の改善が期待されることである。近年の植物肉における研究開発は始まったばかりであり、今後、3Dバイオプリンティング技術の活用などのさらなる技術開発により、本物の肉と同等の味、食感、芳香を実現し、消費者にとって魅力的な選択肢となる可能性がある。2つ目の理由として、今後欧米以外の地域の市場拡大が見込めることが挙げられる。現在の世界における植物肉市場は大半が欧州・北米で占められており(※1)、アジアや南米等の地域は黎明期に近い状況である。今後多くの人口を抱える国で植物肉が拡がることで、市場が拡大する可能性がある。

今後の世界における植物肉市場の動向を注視したい。

(※1)The Good Food Institute “2022 Plant-Based State of the Industry Report”, 2023
(※2)The Good Food Institute “U.S. retail market insights for the plant-based industry”, 2023

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

五十嵐 陽一
執筆者紹介

マネジメントコンサルティング部

主任コンサルタント 五十嵐 陽一