ChatGPTは、エコシステムを築けるか?

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2023年05月24日

2022年11月にリリースされたAI(人工知能)『ChatGPT』が、社会経済に与えたインパクトは大きい。大規模言語モデルに分類されるこのAIは、たとえば、米国の司法試験や医師国家試験などで高得点を取得した、一部の学校ではレポートでの使用を禁じた、等々のエピソードが報道され、その能力は今も話題と期待を集めている。

ChatGPTは、従来のビジネスを脅かす存在になるのではないか、少なくとも、既存の検索システムを脅かす存在になるのではないか、新しいビジネスに活用できるのではないか、等々、様々な議論が展開されている。

筆者もいくつかのジャンルで質問を試みたが、確かに優れたモデルであり、いわゆる知識だけでなく、ほとんど常識(見識と言っていいかもしれない)を備えているように見える。一方、「自信満々に嘘をつく」と言われるわけもわかった。ChatGPTは学習していない分野については間違いが「わからない」ように見える。(※1)これは残念ながら現在のモデルの限界なのであろう。

したがって、今後精度を上げていくには、人間からのフィードバックも依然有効であると思われる。ここで重要なのはそのフィードバック機能をChatGPTのビジネスモデルの中に組み込めるか、である。もちろん、無償でフィードバックを行いたいと思っている人は、多いと思う。しかし、その人のバイアスを防ぐ仕組みが実装できるかどうかは未知数である(正直、Wikipediaの編集合戦のようになるのはあまりスマートとは言えないだろう)。

また、情報の良質な仕入れ先についてどのように継続的に確保していくかも重要だろう。Google の検索エンジンで「おいしいラーメン屋」を検索して、ラーメンのレビューサイトに誘導されることは、ウェブサイト側にもメリットがある。しかし、ChatGPTで「おいしいラーメン屋について教えて」と、聞いた場合、何人がその知識の提供元まで確認してくれるだろうか?(※2)画像AIの場合この問題はより深刻で、インターネット上にアップした画像データを基に、AIが作成した画像が流通し始めている。文字媒体にも同じ懸念があり、ChatGPTによりクリエイティブなウェブサイトを提供するインセンティブが減ることも予想される。

したがって、ChatGPTはその正確な知識と常識を提供・学習させてくれる存在に何か対価を提供する仕組みがないと持続可能で発展的なモデルにはならないのではないか(たとえば、仮想通貨と組み合わせた報酬体系など)。いかにして、検索エンジンのようなスマートな共存共栄のエコシステムを作れるか、それは、技術的に人工知能を開発することと同じくらい困難なことかもしれない。

(※1)たとえば、春の俳句を何首か詠んでもらったのだが、何度言っても「季重なり」を理解してくれない。
(※2)今のところ、同じエンジンを基本としていても、BingのAIは出所へのリンクが張ってあるが、ChatGPTには出所へのリンクが張られていない。

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江藤 俊太郎
執筆者紹介

コンサルティング第三部

コンサルタント 江藤 俊太郎